ギルドの所有している白い飛行艇に乗り込むと、アリアは腕を組み、厳しい表情で隣に座る息子を見た。

「フェイ」

「なにー?」

「あまりリディルに触れるな」

「えー? 今日はちゃんと手を洗ってたよ? お出かけするから綺麗な服も着たし」

「そういう問題ではない。……リディルは、女の子、だからな」

 アリアの言葉に、フェイレイはきょとん、と目を丸くした。

「……そのくらい知ってるよ。俺、そんなことが分からないほど馬鹿じゃないからね?」

 馬鹿にされたと思ったのか、フェイレイはぷくう、と頬を膨らませた。

「そういう意味じゃない。……リディルは家族だ。お前の妹のような存在だ。だが、血が繋がっているわけではない。戸籍上も兄妹ではない。そのことを忘れるな」

「……ちゃんと知ってるよ?」

「いずれ母さんの言っていることの意味が分かる日が来る。その時に後悔しないためにも、あまり抱きしめたり、……ちゅ、ちゅーしたりするなよ?」

「えぇー」

「怖い夢を見ないように一緒に寝るのも、しばらくは仕方ないが、近いうちに控えるようにしろよ」

「えぇー」

「お前、もう9歳だろう」

「うん」

「……早い者は、もう自分や周りの性について察するようになる時期なのだがな。お前はランスの血を引いているわりに……色々と、のんびりだな。……私に似たのか……」

「……なにが?」

「ごほんっ。……まあいい。とにかく、少し距離を置くことを覚えるんだ。いいな」

「えぇー……」

「分かったな」

「えぇー……」

「男女がいつまでもべったりしているな。間違いがあってからでは遅いんだ」

「母さんはいつも父さんとくっついてるのにー」

「母さんは父さんと結婚しているからいいんだ!」

「じゃあ俺もリディルと結婚するー! そして母さんたちみたいにベタベタするー!」

「そんな不純な動機で結婚するなど許さんからな馬鹿者め!」

 ごちーん、とフェイレイの頭に拳骨が落ちた。

 凄まじいエンジン音の鳴る飛行艇内で大声で繰り広げられる親子の会話に、パイロットのマキシが腹が捩れるほど笑い転げていたのはここだけの話。