「リディル、フェイがいないと寂しいのは分かる。一人で学校へ行くのも、一人で大人と接することも、まだ怖いかもしれん。だがな……いつまでもフェイに頼ってばかりいては、お前は成長することが出来ん。そして、フェイもな」

「……ぇ」

 呻き声にも似た声を発するリディルの表情が強張る。アリアの顔もいつもより冷たく見えた。

「お前はフェイの成長の妨げとなる。フェイのやりたいことを……邪魔してしまう」

 強張った顔のリディルの頬から顎へ、雫が滴り落ちる。それを見ながら、アリアは静かに問うた。

「お前はフェイの足枷になりたいか?」

 湯気にあたってほんのりと赤くなっていた肌が、さあっと白く青ざめていくのが分かった。この子の心が酷く痛んでいることは明白だ。だがしかし、アリアは心を鬼にして更に言う。

「お前はフェイの重荷になりたいか? ……私は、お前にそうなって欲しくない。出来ればフェイがいなくとも生きていけるくらいの強さを身に着けてほしい。そして、フェイの後ろではなく、隣に立っていてもらいたいのだ。同等の立場で、ただ護られるだけの存在ではなく、フェイを助けてやれるような、そんな人に、育って欲しい」

 リディルはカタカタと震えていた。

 フェイレイの重荷になる。迷惑をかける。恐らくここ数日、自分でも感じていたことを、他人の口から指摘される。心が凍りつくような想いがしただろう。

 だがぎゅっと唇を引き結び、拳を硬く握り締めている。今のアリアの言葉を聞いて、何か葛藤していることが分かった。

 アリアは白く、冷えた体に温かなお湯をかけてやる。

「リディル。お前にはフェイだけでないことを知るんだ。学校の友達も、この村に住む者も、そして私やランスも。……お前のことを見ているし、お前を受け入れている。リディル……その中でお前は生きている。そのことを、どうか感じていて欲しい」

 湯気が、頼りないリディルの姿を覆い隠す。


 ──後は、この子がどう判断するか。