空よりも高く 海よりも深く

「まあ、そうだな。養成学校は全寮制。朝から晩まで扱かれる」

 それにしても何故剣士なのだ、何故拳闘士ではないのだ、とアリアは続けようとした。

 以前に苛めっ子のクラスメイトたちに怪我を負わせられてから、アリアはランスには内緒でフェイレイを鍛えていた。剣術ではなく拳術を教え込んでいたのに、何故剣士になると言い出したのか。

 そう問い質そうとしたのだが、その前にリディルが小さいながらも切羽詰った声でフェイレイに飛びついた。

「いや、いや……! フェイに、会えなくなる……いやだ、寂しい……!」

 フェイレイを見つめる翡翠色の瞳にはみるみる涙が膨れ上がっていく。

「え、や……でも、勇者になるには、強くならないといけないから……」

「いや! フェイと離れたくない!」

 リディルはフェイレイにぎゅう、と抱きつく。フェイレイは困惑しながらもリディルを抱きしめ返し、うーんと、うーんと、と呟きながら何か考えている。

「……リディルは、俺と離れるの、いや?」

「いや……!」

「……俺も、嫌だけど、がまん……」

「いや! ぜったい、いやだ!」

 ここまでリディルが頑ななのは珍しかった。こんな風に感情を表すことすら初めてだ。フェイレイだけでなく、ランスやアリアも戸惑い、言葉を失っている。

「フェイがいくなら、私も、いく。ギルドに、いく」

「リディル……リディル、落ち着け、ギルドはお前のような女の子が行くところではないぞ?」

 アリアがリディルの頭を撫でる。

「一緒に、いく……フェイのそばに、いる……!」

「リディル……」

 リディルが顔を押し付けている肩が冷たくなってきたのを感じ、フェイレイは顔を歪めた。泣いているのだ。リディルが、離れたくないと泣いている。

 フェイレイはそっとリディルの頭を撫でた。

 自分にしがみつく手も、そっと撫でた頭も震えている。そんなに離れたくないのかと、胸の奥が締め付けられた。

「母さん……リディルも一緒にギルドに行っちゃ、駄目、かな……?」

 フェイレイがそう言い出したのを聞いて、アリアとランスは顔を見合わせた。そしてこれが不安の正体か、と気付いた。