けれども傭兵は高い給金と引き換えに、命を賭けて人々を護る職業。常日頃から、ランスは母さんのお仕事は危険なものだ、フェイレイには農業を継いで欲しいと言い聞かせていた。

 リディルの騎士として育てることと、ギルドで魔族を相手に戦わせることは、ランスの中では同義ではなかった。

 だから遊びの中に体力の向上や体術の基礎、剣技の修練を組み込みはしても、決して戦いの中に飛び込ませるようには仕向けてこなかった。

 大事な息子には平和に暮らして欲しい。そういう父としての想いと、もうひとつ。

“戦ってはいけない”

 ランスはギルドで剣士として戦っている間ずっと、そう思っていた。

 何故かは分からない。

 剣士として研鑽を積んでいくたび、魔族を斬り刻むたび、胸の奥がざわざわしていた。

 他人には穏やかに見えるだろう自分の中に、なにか得体の知れないものが渦巻いている。我を忘れて剣を振るえば、それに飲み込まれてしまいそうだと──ずっと、思っていた。

『お前はもっと強くなれるのに、何故力を抑えながら戦うんだ?』

 結婚する前、アリアにそう訊ねられたことがあった。

 わざとそうしていたわけではない。けれども、無意識に自分を制御していたのは事実だ。自分を解放してはいけないと、ブレーキをかけていた。

 何故なのか。

 自分の中に眠る、膨大な魔力。

 他人よりも聴こえる精霊の声。

 どうしてなのか、今まで考えないようにしていた。亡くなったランスの父も精霊に好かれていた。その父も、争うな、平和の中で生きろと、常日頃からランスに言い聞かせていた。──ああ、何故だったのか。
 
 自分で答えを出さなかったそのツケが、息子に回ってきてしまった。

 フェイレイも自分や父と同じ。

 膨大な魔力を持ちながら精霊を召喚出来ない、けれども精霊に愛された、特別な存在なのに──。

「フェイ──」

 頭ごなしに反対しようとして、しかしランスはグッと堪えた。

「フェイ、どうして、そう思ったんだい?」

 しゃがんで、フェイレイと視線を同じにして訊ねてみる。

 フェイレイは顔をくしゃりと哀しみに歪め、話し始めた。