「なん、だ、と……!」

 その報告を聞いたアリアは、怖いくらいに目を見開いたまま、斜め上を見て動かなくなった。

「皇女殿下と、ど、同衾、だとっ……!」

「いや、その言い方はどうかな。そして皇女殿下ではなく、俺たちの娘だから」

 ランスはやんわりと突っ込んだ。

「す、すまん、あまりのショックで一瞬記憶が一年前まで遡った……」

「はは、大丈夫かい? ……時々ね、一緒に寝るようになったみたいだよ。どうやらリディルが怖い夢を見るらしくてね。あの時も、怖い夢から逃げたくて外に出て行ったのかもね」

「怖い夢?」

「あの子には記憶がないけれど、怖い思いをしたことは潜在的に覚えているのかな。それが夢となって現れて……。ずっと、泣かせていたみたいだ。ちゃんと気づいてあげられなかった。親として反省しないといけないね」

「そう、だったのか……。くっ、なんということだ。私たちの前では元気そうだったが、実は隠していただけだったのか」

 最近は笑顔も増えてきて、友達も増えて、穏やかに過ごせているのだとばかり思っていた。けれど、それは自分たちを気遣ってのことだったのか。ずっと見守っていたつもりが、見えないところで哀しい想いをさせてしまっていたことに夫婦は心を痛めた。

「だが、フェイが気づいてくれて良かった。これで少しでも傷が癒えると良いが……」

「……そうだね」

 ランスは頷きながらも、表情は曇ったままだ。

 なんとなく。

 心の片隅をもやもやとしたものが覆いだしていた。



 その不安の正体に気付くのはすぐだった。

「父さん、父さん!」

 アリアとリディルの話をした数日後、夕食の支度をしていたランスの元へ、フェイレイが駆けてきた。

「どうしたんだい?」

「あのね、父さん。俺、ギルドに入りたい!」

 小さな息子は、真剣な顔でそう告げた。

「ギルドに……?」

 ランスは少し、怖い顔で振り返ってしまった。

 ギルド。魔族討伐専門機関。それはアリアが所属している傭兵部隊派遣所のことで、かつてはランスも剣士として属していた。