声を出せるようになってから、リディルの回復は更に順調に見えた。

 大人しく、あまり積極的ではないものの、フェイレイに連れられて毎日外に遊びに行っていたおかげで体力もつき始め、食欲も増えてきた。

 大人の姿に多少怯えはするものの、挨拶が出来る程度には慣れてきたので、思い切って春から学校に通わせてみることにした。

 各学年を合わせて十人程度しかいないアットホームな学校で、初めはフェイレイの影に隠れるようにして、少し怯えた様子だったリディル。

 狭い村の中では、リディルは『災害孤児』として知られており、親を亡くし、記憶も無くした可哀想な子なんだよ、と子どもたちは親から聞かされていた。

 だから怯えた様子のリディルを見ても、ほとんどの子どもたちが同情的な目を向けていて、なんとか元気になってもらわないとね、と優しい言葉をかけてくれた。

 フェイレイ以外の子どもたちと初めて接したリディルは、初めは戸惑っていたものの、フェイレイの橋渡しもあってうまく学校に溶け込めたようだ。担任教師からのマメな報告に、ランスとアリアもほっとする毎日だ。

 元からいるいじめっ子たちに目をつけられ、怪我をさせられた日もあったが、そこは短気のアリア、相手の親のところに吹っ飛んで行って、親同士で大喧嘩し、互いの夫たちに宥められたりする出来事もあったが、その他には特に大きな事件もなく、日々は穏やかに過ぎていった。



 学校に行き始めてから、一年ほど過ぎただろうか。

 ランスは農作業に精を出し、アリアはギルドの執行部で忙しくしている。そんな日々を送りながら、親として相変わらず元気な息子と、無表情ながら、始めの頃よりはずっと穏やかになったリディルを見守る二人。

 最近では笑顔の練習でもしているのか、にぃ、と笑ったような口の形を取ることが増えてきたリディルに、フェイレイが嬉しそうだ。

 そんな手紙をアリアに送ったすぐ後に。

 ランスが異変に気づいた。