「そうか。小鳥は無事に戻せたかい?」

「もちろん! あ、でも、ちゃんとお母さん鳥が来てくれたか見てこなかった。リディルの声が聞けて、うれしくて思わず走ってきちゃったから……。父さん、俺、お母さん鳥が巣に来てくれたか見て来るね!」

「フェイ、けが、は……? いたくない、の?」

「平気だって! 俺、男だもん!」

 涙目で明らかに強がっているのが分かるのだが、フェイレイは笑ってみせた。そうして手当てが終わるとすぐに走り出した。それをリディルがちょこちょこ走って追う。

「リディルも見てくるのかい?」

 そう訊ねると、リディルは肩越しに振り返った。

「フェイ、危ないから、見てる……」

「ふふ、そうか。リディルも気をつけてね」

「はい……」

 リディルは頷きながらフェイレイの後を追っていった。家を出たところでフェイレイがリディルが追いかけてきたのに気づき、いつものように手を繋いで走っていく。

 それを見送るランスは、小鳥の無事を見守るフェイレイと、そんな彼を見守るリディルの姿を思い浮かべてくつくつと笑った。

「これはアリアに報告しなきゃなぁ」

 救急箱をしまってすぐに、羊皮紙を取り出して今の出来事を綴るランス。



 数日後の休日、アリアは大量の果物と菓子を両手に抱えきれないほど持って帰ってきた。

「宴だ! リディルの声が出るようになった祝宴を開くぞっ!」

 と、王都で仕入れてきたかわいらしいワンピースをリディルに着せ、家中を花で飾りつけた。

「リディル、さあ、『母さん』って言ってごらん?」

 アリアは自分が作れる最大の笑顔を浮かべ、リディルに迫る。

 リディルは翡翠の瞳を戸惑いに揺らす。その視線はアリアとフェイレイとランスの三人の間を行ったり来たりしている。

「恥ずかしがることはない。私たちは家族なんだ。さあ、『母さん』と言ってごらん?」

 優しさと期待が入り混じり、少々鼻息が荒くなってくるアリアに、リディルは少し逃げ腰だ。

 それでも、フェイレイがいつも通りに微笑んでいるから。ランスが「アリアがとても喜ぶから、呼んでくれるかい?」と、そっと耳打ちしたから。

 リディルは少し頬を染め、恥ずかしそうに身を捩らせながら言った。

「かあ、さん……」

 途端に、アリアの顔が太陽のごとき輝きを放つ。

「いつも、おしごと、ありがと……」

 チラチラと目をアリアに向けながら、小さな声でそう言ったリディルの頭をランスが優しく撫でる。

「母さん、いつもお仕事がんばってくれてありがとー!」

 続けてフェイレイも大きな声で言う。

 アリアの顔が、眩しすぎて見えないほどになった。

「……っ、ああ! お前たちがいるから、母さんはいつも頑張れるんだ! みんなもありがとうな!」

 アリアはリディルとフェイレイ、そしてランスも掴んで、力強く抱きしめた。