心の傷を少しずつ癒したリディルは学校へ行き出し、たくさんの友人たちに囲まれてどんどん活発になり、やがては花のような笑顔を見せ始める。

 母さん、母さんと慕ってくれるかわいい娘は、やがて溜息が漏れるほどの美しい女性に成長し、誰もが認める好青年と結ばれ──ここにぼんやりと息子の姿があったりするのだが、まだなんともぼんやりしていて妄想でも形にならなかった──『母さん、今まで大切に育ててくれてありがとう……』と、嫁入り前の最後の『ありがとう』を──。

 そこまでの妄想が、走馬灯のように脳内を駆け巡った。

 母、感極まれり。

 そんな母の歓喜の雄叫びに、リディルの肩がビクリと震えた。

 しかしもうアリアは止まらない。喜びのままにリディルを抱きしめた。

「どういたしまして、かわいい娘よ!」 

 そのまま頬ずりをして、頭を撫でて、背中を撫でて、目一杯愛情を擦りつけた。

「あー、母さんずるい! 俺も、俺もリディルにぎゅうするー!」

 そこにフェイレイも加わって、両側から挟み込まれるリディル。

「あははは、じゃあ父さんも混ぜてもらおうかなぁ」

 後ろからはランスが家族全員を包み込むように抱きしめる。


 リディルは硬直していた。

 何をされているのか理解出来なかった。

 けれども抵抗はしなかった。

 戸惑いが大きいだけで、怖くはなかったのだ。



 『家族』に包まれる温かさに、氷塊となった心が少しずつ、溶け始めた出来事。