クラウス王がちゃんとサンドウィッチを食べているか確認をしながら、もう一杯お茶を注いでやり、ひと呼吸置いた。

「クラウス王、お願いがあります」

 改まった物言いに、クラウス王も持っていたカップを下げ、アリアに顔を向けた。

「実は、先日うちの愚息がある娘を助けまして。その娘をうちで引き取りたいと思っています」

「ああ……それは、手続きをしてもらえば大丈夫だと思うが」

「その娘、名を、リディアーナ=ルーサ=ユグドラシェルと申しまして。……お分かりの通り、先の皇帝陛下ご息女、皇女殿下であらせられます」

 ゆったりと動いていく白い雲に光が遮られ、陰が出来る。それまで心地よかった風が急に温度を失って、アリアと王の肌を苛んだ。

 それからまた雲が流れて、ゆっくりと光が辺りを満たしていき。

 クラウス王の持っていたカップが、音を立てて芝生の上に落ちた。

「……あ、アリア」

「はい」

「……その素性に、間違いは、ないのか」

「はい」

「皇女殿下は行方不明、と、報告を受けた……が」

 真っ直ぐに射抜くような視線を向けてくるアリアに、クラウス王はひとつ深呼吸をした。そして瞳に力を込める。

「分かった。詳しい経緯を話せ」

「はっ」

 ここでちゃんと話を聞こうとする王が、アリアは好きだ。

 感謝をしながら眠り姫を川から引き上げた状況から、エインズワース親子のこと、眠り姫の状態をゆっくりと話していった。

 話し終えてからも、クラウス王はしばらく何か考え込んでいるようだった。

 更に時が経ち、ほう、と息をつくのが聞こえた。

「それで……アリアは殿下を、民間の中で育てたいと言うのだな?」

「はい。ですが……星府軍と相対するようなことになれば、王にもご迷惑がかかるかもしれません。そのことを了承していただかないと……私も引き取ることは出来ませんので、こうしてお願いにきました」

「ううむ……」

 クラウス王は頭を抱えてしまった。

 アリアと同じ年のクラウス王。

 まだ若い王には難題が降りかかりすぎている。これ以上負担をかけるのは申し訳ないとも思う。しかし、ここは避けては通れないところだ。

「クーデターの首謀者、か……。7歳の娘に何が出来るというのだろうか。星府軍も酷なことをする……」

 独り言のように呟くクラウス王は、しばらくじっと瞳を閉じていた。