「英雄さん、この間もご活躍だったそうだね!」

「今エスティーナから新鮮な貝が届いたんだ。後でギルドまで届けてやるよ」

 買い物客で賑わう商店街を歩くと、すぐにそんな声が飛んでくる。

 笑顔で声をかけてくれる人々に礼を言いながら進んでいくと、紺碧の屋根の、縦に長い小さな城が見えてきた。目指しているのはあそこだ。

 エインズワース夫妻の決意を受けて、アリアが次にしなければならないこと。それは、国王の許可を得ることだ。



 城門をくぐるとすぐに近衛兵がやってきて、王に取り次いでくれた。

 赤い絨毯の敷かれた階段をずっと上まで上っていき、長い廊下を抜けた先にある扉を近衛兵に開けてもらう。その重い扉の先には、大きな執務机に座っているセルティア王──クラウス=ダート=アーヴァントロルがいた。

 机の前に立つ頑強な肉体に鋼の鎧を身につけた武人、ビル=アイザック将軍とともに難しい顔をしている。

「ああ、アリア」

 アリアの入室に気付いたクラウス王は、ほっとしたように表情を柔らかくする。

 柔らかなブラウンの髪と瞳を持つ王は儚げな印象すらある優男で、アリアと同年代ではあるが、それよりも若く見える。

 対してアイザック将軍は金の鬣と評される剛毛の髪と、豊かな髭を顎に生やした偉丈夫で、ただそこにいるだけで他を圧倒する貫禄があった。

 彼は国防軍を統括する立場でありながら、前線で剣を振るいながら指揮を取るという困ったところがあり、似たようなところのあるアリアとはお互いに親近感を持つ間柄だった。

「ギルドの英雄殿か。では、私はこれで」

 アイザック将軍はクラウス王に敬礼すると、アリアの横をすり抜けていった。

 すれ違いざま、お互いに唇の端を上げた不遜な笑みを向け、軽くハイタッチを交わす。遅くなったが、先の戦の勝利を祝うための挨拶だ。

 それに対しクラウス王の傍に控えていた近衛兵たちは眉を潜めたが、アリアは気にしない。クラウス王もそうだった。

「アリア、私は今から昼食にするんだ。一緒にどうだ?」

 何事もなかったような笑みで立ち上がるクラウス王。

「ええ、付き合いましょう」

 アリアも笑顔で頷いた。