夫妻はフェイレイと二人のときの、無表情にぼんやりとしている眠り姫の顔を見る。

 にこにこと微笑みかけるフェイレイに、無表情ながら、穏やかなように見える眠り姫。フェイレイがいるからこそ今のように落ち着いているが、無理に連れ出せば今度こそ、取り返しがつかないくらい心を壊してしまうかもしれない。

 その危険を冒すくらいなら、このままがいい。

 一月ほど様子を見た後、夫妻はそう決断した。

 そして少し離れたところから見守ることを決意し、アリアの伝手でギルドに加盟することになった。ここを隠れ蓑に、皇女を見守るために。






 13月。年の一番最後の月。

 白い息の出るひやりとした空気に包まれた、セルティア王都フォルセリア。

 王都の名前は、国章にもなっている白くて可憐なラセリアの花と、国土のほとんどを覆う広大な森に棲息する精霊、フォレイスから取られたと言われている。

 その由来から想像出来るように、フォルセリア──セルティアは数多ある国の中でも特に争いのない平和な国だ。魔族の襲撃はあるものの、他国からの侵略は二百年の歴史を紐解いても見当たらない。

 北西をガルガンデ山脈に囲まれ、東はエーデル海に広く覆われた地形の利もあるだろうが、東の大陸は豊かな土地に恵まれ、領土争いがほとんど起こらなかった。

 他の大陸がどうかというと、大国アライエルに統治された北の大陸は安定しているが、政治情勢の不安定な西の大陸や、鉱物資源の採掘権で長年争っている南の大陸では内乱が度々起きている。

 それでも、魔族から自分たちの生活を守るのが最優先となっているこの星では、人同士の争いは少ない。

 ──だからこそ国防軍の脆弱さが浮き彫りになった戦争だった、とも言える。




 高い石の防壁に囲まれた街は、深い緑色の尖った屋根の建物が並んでいる。

 その下の煉瓦敷きの道を中央へ向かう道すがら、アリアは色んな人に声をかけられる。

 彼女の赤い髪は目立つ。

 セルティアでも珍しい燃えるような赤い髪は、この国を魔族から守ってくれるギルドの象徴として国民に認識されていた。