「だいじょぶ? ひめ、血が出てるよ!」

 逃げ場を探して視線を彷徨わせていた眠り姫は、その声に引き寄せられるようにフェイレイへ顔を向けた。

「痛いね? ぺったんしよ?」

 彷徨っていた視線は、心配そうに細められた深海色の瞳で止まる。

 ガタガタと可哀想なくらいに震えているのを見て、フェイレイは眠り姫が寒いのかもしれないと思った。ぎゅうっと抱きしめて、背中をさする。

「ひめ、さむいのー? 母さーん、毛布ちょうだーい」

 顔を上げるフェイレイに、アリアは頷く。

「ああ……」

 アリアはベッドの布団を取り、身を乗り出して眠り姫の肩にかけてやった。その下で背中を撫でられている眠り姫の震えが、少しずつ治まってきているのが見ていて分かった。

「……フェイ。姫は知らない人ばかりで怖がっているようだ。いい子いい子してあげなさい」

「ん? うん、分かった」

 フェイレイは毎日していたように、優しい手つきで頭を撫でてやる。

「いーこ、いーこ。だいじょうぶだよ。怖くないよ」

 カタカタと震えている眠り姫は、その声に徐々に落ち着きを取り戻していく。

 フェイレイの脇腹あたりのシャツを掴むと、きゅっと目を閉じ、フェイレイの肩に額をこすりつけた。

 それからしばらくして、くたりと力が抜ける。

「……ひめー? あれ、ひめ、また寝ちゃったよ。だいじょぶかな?」

 フェイレイは眠り姫が、すうすうとちゃんと息をしているのを確認してほっとする。

 アリアや医師たちもほっと胸を撫で下ろし、ランスがベッドを回り込んで眠り姫を抱きかかえ、そっとベッドに戻した。

 無理やり針を抜いてしまったために出血した腕を手当てし、他に異常がないかを診て、一同はようやく一息ついた。