だが諦めなかった者がいる。
赤髪を左右の耳の上でシニヨンにした女拳闘士──『セルティアの英雄』アリア=グリフィノー。
現在セルティアギルド所属の傭兵のほとんどは、王都フォルセリアの防衛に当たっている。もちろん、『セルティアの英雄』と讃えられる彼女に与えられた任務も王都防衛だった。
けれどもアリアはここにいた。
セルティアを守る自然防壁、2000メートル級の山が連なるガルガンデ山脈、その頂に。
国防軍が撤退した時点で、アリアもここから退かなければならなかった。しかしそれは彼女にとって死よりも恐ることだった。
絶対に逃げ帰ることは許さないと、自分に言い聞かせる。
暴風雨に嬲られる細い身体に激しい闘志を燃やして、山を登ってくる魔族へ単独奇襲をかける。
雨に濡れて滑る岩肌の山道を全速で駆け下り、青白い闘気を纏わせた拳を握り締める。そして。
「っらぁああっ!」
足元の岩山を鋭く突くと、魔族の軍勢の元まで亀裂が走った。
ガラガラと闇の中に岩の崩れる音と、地割れに巻き込まれていく魔族の悲鳴が響く。
それを肩で息をしながら聞いたアリアは、もう一度拳を握り締める。
「もう一丁っ!」
更に拳を地面に突き立てようとしたところへ、矢が飛んできた。
隠れる場所のない山の上。アリアの特攻してくる姿は敵から丸見えだった。
「ふん、こんなもの」
空気を切り裂いて襲いかかってくる弓矢を闘気を纏った拳で叩き落とす。次々に飛んでくる矢を、雨粒を吹き飛ばしながら拳ひとつで払いのけるのは、さすがセルティア随一の戦闘力を誇る拳闘士だ。
だが無謀。
矢を貫通させない防御力を持つアリアでも、空の全てを覆い尽くすような弓矢が放たれては、無傷でいられない。
それを分かっていながら撤退などということは頭の片隅にもなかった。
ここで足止めする。
この身をかけて、先へは進ませない──!
赤髪を左右の耳の上でシニヨンにした女拳闘士──『セルティアの英雄』アリア=グリフィノー。
現在セルティアギルド所属の傭兵のほとんどは、王都フォルセリアの防衛に当たっている。もちろん、『セルティアの英雄』と讃えられる彼女に与えられた任務も王都防衛だった。
けれどもアリアはここにいた。
セルティアを守る自然防壁、2000メートル級の山が連なるガルガンデ山脈、その頂に。
国防軍が撤退した時点で、アリアもここから退かなければならなかった。しかしそれは彼女にとって死よりも恐ることだった。
絶対に逃げ帰ることは許さないと、自分に言い聞かせる。
暴風雨に嬲られる細い身体に激しい闘志を燃やして、山を登ってくる魔族へ単独奇襲をかける。
雨に濡れて滑る岩肌の山道を全速で駆け下り、青白い闘気を纏わせた拳を握り締める。そして。
「っらぁああっ!」
足元の岩山を鋭く突くと、魔族の軍勢の元まで亀裂が走った。
ガラガラと闇の中に岩の崩れる音と、地割れに巻き込まれていく魔族の悲鳴が響く。
それを肩で息をしながら聞いたアリアは、もう一度拳を握り締める。
「もう一丁っ!」
更に拳を地面に突き立てようとしたところへ、矢が飛んできた。
隠れる場所のない山の上。アリアの特攻してくる姿は敵から丸見えだった。
「ふん、こんなもの」
空気を切り裂いて襲いかかってくる弓矢を闘気を纏った拳で叩き落とす。次々に飛んでくる矢を、雨粒を吹き飛ばしながら拳ひとつで払いのけるのは、さすがセルティア随一の戦闘力を誇る拳闘士だ。
だが無謀。
矢を貫通させない防御力を持つアリアでも、空の全てを覆い尽くすような弓矢が放たれては、無傷でいられない。
それを分かっていながら撤退などということは頭の片隅にもなかった。
ここで足止めする。
この身をかけて、先へは進ませない──!