空よりも高く 海よりも深く

 そんな息子を見ていたら頭が冷えてきて、大きく溜息をついた。

 確かに、ここでフェイレイを殺したら、何故そうなったと周りから注目を集める。そうすれば眠り姫の素性も調べられることに……。

「ああ、ありがとうランス、危うく過ちを犯すところだった……」

「うん、良かった、止めてくれて。アリアが本気で暴れたら俺でも大変なんだよ」

 ほっとしたようにランスも言う。そして改めて、フェイレイに指導する。

「フェイ、キスは……口にしちゃったのかな?」

「うん! だって絵本の王子さまはそうしてたもん!」

 なにも悪びれることなくそう言う息子に、ランスもアリアもガックリと肩を落とす。

「いいかフェイ! 今後そのようなことをすれば母さんの拳骨が百回……いや、千回落ちると思え! 絶対にキスは駄目! 禁止!」

「えええー! なんでだめなの~?」

 納得いかないフェイレイは頬を膨らませてプリプリ怒る。

「なんでとは!」


 それはこの子が皇都のリディアーナ皇女殿下で、神にも等しいお方だからだ!!!!!


 ……とアリアは心の中で叫んだが、子どもの口から素性が漏れるかもしれないと思うと、その事実を伝えることは出来なかった。

「……なんでもだ! ていうか、寝ている女の子にキスとは、変態のすることだ!」

「ヘンタイって、なにー?」

「変態は変態だ! 頭のおかしいヤツのすることだ!」

「……じゃあ絵本の王子さまも、ヘンタイで頭おかしいのー?」

「そ、それは……」

 アリアは少し返答に困った。フェイレイはますます頬を膨らませる。

「いいじゃん、キスくらいー。母さんだって父さんとしてるもんー」

 アリアは顔を引きつらせながらも、顔を真っ赤にした。

「ランスー! だから子どもの前ではするなと!」

「夫婦なんだからいいじゃないか。それに、仲のいいところを子どもに見せるのは、良いことだと思うけどな?」

 ランスはニコニコと笑顔で、アリアの肩を抱いた。そんな両親をフェイレイもニコニコと見上げる。

「らぶらぶー」

「やかましい!」

「ハハ、ありがとう」

 ランスはアリアの頬にチュッとキスをする。

「ば、ばかー! やめろー!」

 ガツ、ゴツ、とアリアの拳がランスの顔を抉る。しかしランスは爽やかな王子様の顔を崩さず、にこにこしている。