「溜息が出るな」

「そうだね……」

 自分たちの無力さに。

 溜息が出る。

 眠り姫も、エインズワース親子も、自分たちが助けてやりたいのに、そうすることは出来ない。果てのないジレンマだ。

「……ああ、そうだ。ランス、ちょっと相談したいことがあるのだが」

「なんだい?」

「どうやら、私は現場から執行部に移動になるらしい」

「……君が?」

「くっ……そう眉を潜めるんじゃない。自分でも人選ミスだと思っているさ」

「いや、そうじゃないけど……まだ君は若いのに。現場から離してどうするのかと……」

「この戦争と災害で急いで審議しなければならない事案が山のようにあるらしいんだが、それがちっとも進まないんだそうだ。今すぐにズバッと物を言い、グイグイ事を推し進められる人材が欲しいんだと言われた」

「それなら君にピッタリだね。英雄の君はあちこちにファンがいるし、話し合いもスムーズにいくかもね」

「うむ……。だが、私は現場の方が性に合っている。それに危険手当が出なくなるから給料も減る。眠り姫もいつ目覚めるか分からんし、どうしたものかと……」

「うーん……」

 結局その話は結論が出ないまま、空の回廊を渡りきってしまった。すぐに病室が見えてくる。

 中に入ると、白い病室の中にはまだ眠り続ける眠り姫と、飽きることなくそれを眺めているフェイレイという、いつもの見慣れた光景があった。

 アリアもずっと仕事だったので、フェイレイは毎朝一人でここに来て、言われた通りに勉強をして、眠り姫に絵本を読み聞かせ、そして一緒に昼寝をしていた。

 アリアがいるときには一緒にコンドミニアムへ帰り、いないときはここのソファで眠る。

 子どもを一人にするのは良くないと、フェイレイが泊まるときはオズウェルも一緒に泊まってくれていた。だがヴァンガードが急病でいなかったりするとフェイレイ一人だ。そういうときは眠り姫の隣で添い寝していることもあった。

「ひめがさみしそうだったんだもん」

 そんな風に言い訳していたが、恐らく自分が寂しかったのだろうと、神聖なる皇女殿下に添い寝したことは怒らないでおいた。

 そんなことを2ヶ月も。

 7歳の子どもが良くこんな生活を続けられるものだと、親ながら感心する。