11月になり、セルティアはますます冷え込んできた。例年であれば冬でもコートが必要なのは山岳部くらいだというのに、やはり陽が射さないのが影響しているようだ。

 雪でも降るのではないかというこの日は、久しぶりにランスがギルドにやってきた。

 アリアも休暇が取れたため、ずっと看病をしているエインズワース夫妻に休んでもらおうと、セルティアで有名な湯治場を紹介してやった。

 クーデターは皇宮の恥とされているらしく、情報が隔絶されている。おかげでエインズワース一家のことも、皇女のことも、他の国には漏れていないようだ。この辺りの動きは眠り姫の兄である惑星王が抑えてくれているのかもしれない。

 唯一の追跡者、星府軍も、今は復興に力を注いでいるという情報が入っている。

 エインズワース家の人々は眠り姫が回復次第、セルティアから果てのない旅に出ることとなる。過酷になるだろうその旅を思えば、危険が少ないうちは休ませてやりたかった。


「出来ればな……ここで引き取ってやりたいのだが」

 アリアは溜息をつきながら病院の廊下を歩く。

 彼らの境遇を思えば同情を禁じ得ない。それでも、事の大きさを思うと深く関わることも出来ない。

「本当にね。フェイも一生懸命看病しているし、目が覚めてからもお友達として付き合っていければいいんだけど……」

「お、皇女殿下とかっ」

「だって、隠さないといけないんだろう? 眠り姫は皇都に帰ることは出来ないんだから、それなら普通の人としての道を……しあわせに生きる道を、探してやりたいじゃないか。それに、眠り姫はお母さんと一緒に田舎でのんびりと暮らしていたんだろう? 俺たちみたいな庶民に混じって生活する方が落ち着けるんじゃないかな」

「む……確かに、そうかもしれんな……」

 だが。

 そうしてやりたいとは思っても、してやれない。

 星府軍に追われる皇女を助けることは、皇家に仇なす行為だ。もし見つかれば厳罰に処せられる。エインズワース親子に加担したアリアやランス、そして恐らくフェイレイも。もしかするとギルドにまで迷惑をかけることになる。

 いくら惑星王が妹姫を助けよと命令を下していたとしても、それは表に出してはいけないこと。バレたら惑星王を周りから孤立させてしまう。