「……あの子が、眠り姫を助けたことと、誰かに託されたことで妙な責任感を持ってしまってな。目覚めるまで、見舞いを続けてもいいだろうか」

「ええ、それはもちろんです」

 ビアンカもオズウェルも快く頷く。

「いや……誠に恐れ多いことなのだが」

 皇女に気安く触れることも、話しかけることも、本来ならば許されないことだろう。

 けれども眠り姫が目覚めるまで、きっちりと責任を持って看病させてやりたかった。自分が決めたことをやり遂げる。それが彼の成長に繋がるだろうから。……そんな親心を覗かせるアリアだ。

「いいえ、いいえ。フェイレイくんが一生懸命に看病してくださるから、眠り姫もきっと、ここまで回復出来たのでしょう」

「その通りだ。本当に、感謝しています」

 頭を下げるエインズワース夫妻に、アリアも恐縮しながら頭を下げ返す。



 今夜は夫妻に眠り姫を任せることにして、アリアはフェイレイを連れてコンドミニアムに帰ることにした。

 そのときもフェイレイは、病室で何度も眠り姫に「また明日ね」と声をかけ、廊下に出てからも硝子窓からずっと手を振り続けた。

 いい加減抱き上げて連れ帰ろうかと思うくらい、長い間そうしていたフェイレイは、やっとアリアに手を引かれて歩き出した。

「ねー母さん」

「なんだ?」

「あの人たち、ひめの母さんと父さんなの?」

「いや、違うぞ。身元引受人……これでは解らんか。護衛……ううん、いや、知り合い、だな」

「ふーん。じゃあ、母さんじゃないんだ」

「そうだな」

「じゃあ、ねむりひめ、さみしいねー」

「……ん?」

「父さんと母さんがいないと、さみしいんだよ。泣いちゃうんだよ。早く父さんと母さん、来てくれるといいね」

「そうか」

 ふっと、笑みを零すアリア。

 深海色の瞳がしょんぼりとしている。どうやら寂しかったのはこの子の方だ。

「フェイ、今日は母さんが子守唄を歌ってやろう。なにがいい?」

 そう言うと、フェイレイの目がぱっと輝きを放った。

「ほんとー? やったー! やったー! あのねぇ、おほしさま!」

「分かった」

 頷いて、小さな手を握り締める。

 いつもはランスに任せきりで、ほとんど傍にはいてやれない。それでも息子は母を慕うものなのか、フェイレイは嬉しそうに飛び跳ねる。

「母さん、だいすきー」

 くしゃっとした笑顔でそう言う息子に、アリアは一瞬だけ照れて、それから同じ顔で笑った。

「ああ、母さんもだ」



(今日は久しぶりに甘やかしてやろう)

そんなことを心の片隅で思う、冷えた夜道。