「その頑固者はギルドに戻ってくる気はねぇのかよ。副官にはランスがなりゃいいんだ。子育ても一段落しただろう? 被災地の復興まで何年かかかりそうだし、班行動に戻るまでお前のフォローし続けたら俺はハゲるぞ」

 銀髪の長い髪をわしわしと掻きながら言うガルーダに、アリアもふむ、と考える。

 確かにその方がいいのかもしれない。暴走気味になってしまう自分を止められるのはランスしかない。実際、ガルガンデ山脈へ乗り込んでいくアリアを止めたのはランスだ。ガルーダに言われなくても、アリアが一番に信頼しているのはランスなのだが……。

「ヤツは農作物を育てる方が好きだそうだ」

「はぁ……そうかよ。もったいねぇ、ガッカリだ」

 ガルーダがガッカリしているのは主に彼自身のためだったが、その意見はアリアも同感だ。

 しかし本人にやる気がないのだから仕方ない。本気でやれば、今頃皇都で星府軍の士官をやっていても不思議ではないくらいの実力者なのに。


 ふと、ギルドを辞めて子育てに専念すると宣言したときの、ランスの顔を思い出した。

『これ以上、戦い続けてはいけないと思うんだ』

 空色の瞳を伏せ、珍しく思いつめたような顔をしていた。

 その理由をアリアは問い正していない。正確には、聞き出せていない。悲愴な顔でそう言ったランスは、次の瞬間には笑顔でこう付け足した。

『俺は農作業の方が性に合ってるから』


 アリアは夫のことをすべて理解出来ていない。

 夫婦とはいえ他人なのだから、すべてを解ろうなどと無理な話であることは分かっている。けれど。

 なにか心配事があるのなら、話して欲しいと、思う。

 自分たちは他人。別々の人間。

 それでも、共に生きようと誓った夫婦なのだから。