街道に現れる魔族の数ははだいぶ減ってきていた。

 今のうちに居住地を整備してしまいたい政府は、ギルドへ街と街道の整備、必要物資の運搬などの協力を要請した。

「我が第一小隊は北街道担当だ。通行止めになっているベルクの先を整備する」

「イエッサー、アリア隊長っ!」

 アリアの指揮する小隊はフォルセリアより北西を任され、魔族の襲撃から民間人を警護するとともに、共に街道整備をすることになった。

「アリア、フェイレイは大丈夫なのか? 一週間も泊まり込みだぞ?」

 曇天で薄暗い街道を歩いていると、『班長』である副官のガルーダが隣に並んだ。

 『セルティアの英雄』の一人で、以前同じパーティに所属していたガルーダは、長身で細身の魔銃士だ。ライフル型の魔銃で、先陣を切るアリアとランスに的確な指示を出しながら援護してくれていた。

「ああ、病院に頼み込んで泊まらせてもらっている。アストラに帰そうと思ったんだが、誰に似たのか頑固でな……。『眠り姫』の面倒は自分がみるんだと言ってきかないんだ」

「ハハハ、一丁前なこと言って。かわいい女の子なんだって? そのへんはランス似か」

「……まあな」

「アイツも普段はヘラヘラしてるくせに、結構頑固だからなぁ」

「ああ。時々私も困るんだ」

「でもまあ、穏やかだし協調性もある。息子はそっちに似て良かったなぁ。顔はまだしも、性格までお前に似たら手がつけらんねぇ」

 そう言ってガルーダはケラケラ笑う。

「く……否定は、しないが」

 悔しいので手加減なしの裏拳をガルーダの顔面に撃ち込んでやった。

「いてぇーよ! 俺をランスと同じに扱うな!」

 ボタボタと鼻血を垂らしながらガルーダは訴える。

「フン、何年私と付き合ってるんだ。それくらい避けろ」

「親になったんだからもう少し落ち着けよ、お前は! ったく、フォルセリア防衛も放り出してアストラ行っちまうしよー、おかげで俺まで始末書だ。なんでそんなのが隊長やってられんのかねぇ、優秀な副官のおかげだな!」

「そうだな」

「だーかーらっ、若さゆえの無鉄砲はそろそろ終わりにしとけっ」

「ああ、子どもが出来ればもう少し大人になるかと思ったが、そうでもないんだな……」

「しみじみ言う余裕があるならもう少し落ち着け!」

 森の中にガルーダの高血圧な怒鳴り声が虚しく響く。

 アリアに縄をつけられるのはランスくらいだ。それを知っているからこそ、ガルーダは盛大に溜息をつく。