相変わらず空は分厚い雲に覆われ、すっきりしない日々だ。陽が出ないせいで、いつもならば温暖なはずのセルティアは、白い息の出るひんやりした空気に包まれていた。

 それでも人々は街を復興させようと奮闘する。

 アストラ村でも復興へ向けての住宅整備が始まり、自警団長であるランスは村へ応援に戻ることになった。

 幸いにも魔族は村へ進攻する手前で消えてしまったが、それでも災害の痕は凄まじかった。収穫間近だった小麦はほとんどが流され、避難所に連れて行けなかった家畜も流された。果物の実をたわわに実らせていた果樹園は、無惨に潰れた果実が地面に転がっている。

 林業だけは需要が増えているものの、実質、今年の収穫はゼロだ。村人たちの落胆は隠せない。それでも来年のために、その先のために、立ち止まっているわけにはいかない。

 道を塞ぐ瓦礫をどけ、土砂をどけ、家を流された人々のために仮設の住宅を建て、流された橋を直した。

 国の最北に位置するアストラは、元々魔族に襲われやすい村だった。長年それと戦いながら生活をしてきた村人たちには、何にも屈しない強い心が息づいている。

 力を合わせて必ず村を復興させる。その熱い想いを胸に、ランスも村の一員として尽力した。

 そうしている間に学校も再開されることになった。生徒であるフェイレイを呼び戻さなくてはならないのだが……。


 学校のことを認めた手紙を送ると、数日後に返事が届いた。

 差出人はアリアで、フェイレイは眠り姫の看病を続けたいからアストラへは戻らず、通信教育の手続きをしたという内容が書かれていた。

 あれから1ヶ月ほど経つが、未だ目を覚まさない眠り姫。

 フェイレイは彼女を助けてからずっと、毎日のようにお見舞いに訪れている。ランスがアストラに来てからはアリアと2人暮らし。アリアも傭兵家業が忙しく、あまり傍にはいてやれないというのに、寂しいと弱音も言わず踏ん張っているらしい。

「あの甘えん坊のフェイがねぇ……」

 生まれた時からずっとランスの傍にいたフェイレイは、一人っ子ということもあって甘えん坊で泣き虫だ。好奇心旺盛で木登りでも危険な箇所でもどこでも突っ込んでいくものの、それはランスの目の届く範囲内でのことだった。

 その彼が一緒にアストラには帰らなかったことも驚きだったが、周りに知り合いのいないギルドで一人、頑張っていることは更に驚きだった。

 知らずに成長するものだと、ランスは柔和に笑む。

 誰かに託された眠り姫を、強い責任感と使命感を持って護ろうとしている。そんな息子を誇らしく思いながら、ランスは村の復興に忙しい日々を送る。