フェイレイにペタペタ触られている眠り姫は、ピクリとも動かない。

 熱が下がってからの眠り姫は、身動ぎすることもなく眠っていた。見ただけでは生きているのか分からないほど静かだ。息をしていなければ、精巧に造られた人形のようにも見える。

 けれども随分と顔色が良くなった。

 川から引き上げたときは青白く透き通っていた肌が、今はほんのりと桃色に染まっている。顔立ちも整っているので、まさに『眠り姫』の愛らしい寝顔だった。

「ねー、ひめの目は何色なの?」

「うーん、父さんも見たことないから分からないなぁ」

「そっかー。はやく起きてくれるといいのにー。フォレイスもしんぱいしてるんだよ」

 ハニーブラウンの頭を、丁寧に撫でているフェイレイ。

 そこから外の窓へ目をやると、重い雲の立ち篭める空の景色の中に、碧色の光がいくつも飛び交っていた。

「フォレイス……」

 三角のとんがり帽子を被った、碧色のドレスをまとった小さな精霊たちは、このセルティアでは多く見かける森の精霊だ。その精霊たちが心配そうに見つめる眠り姫。

「この間も来てたんだよ。グィーネとか、ウィルダスとかも来てたよ」

「そうか……。精霊に、愛されているんだね……」

 神にも等しい存在である『ユグドラシェル』の血統は、精霊の加護を受けているらしい。

(もしかしたら、あの白い光も……)

 従者のクライヴは惑星王に仕える宮廷精霊士だというし、あの状況でも召喚出来る力を持っていたのかもしれない。護る対象が皇女殿下であるならば尚更、精霊たちは力を貸しただろう。

 そう考えると眠り姫が淡く輝いていた現象も納得がいった。

「フェイ、そろそろベッドを降りて。勉強を始めないとね」

「……はぁーい」

 フェイレイは渋々ベッドから降り、ソファに勢いよく飛び込んで、リュックの中から教科書とノートを取り出した。

 その頭を偉いぞ、と撫でてやる。それから、勉強を始める息子を横目に、ギルドから貸し出されたパソコンを取り出した。特別療養室には他の病室にはない、通信回線が引かれている。