背が高くて体格も良い。けれど、決して威圧感を感じさせない、穏やかな笑みを湛えるランス。

 けれどもひとたび戦となれば、身の丈もある大剣を玩具のように振り回し、並み居る魔族を蹴散らして回っていた姿から、『殲滅の貴公子』などという二つ名を持っている。

 そんなランスに憧れる者は多く、緊張の面持ちで話しかけてくる者、親しげに話しかけてくる者、やけに敵意を持って睨みつけてくる者など、反応は様々だが、良く声をかけられた。

 ランスはどの生徒にもにこやかに挨拶をした。

 金髪碧眼の王子様風美青年であるランスの微笑みは男女を問わず人気があり、一緒にいるフェイレイの愛らしい笑顔も相まって、厳しい訓練に疲れた生徒たちの、憩いの時間を作り出していた。

 今日も生徒たちににこやかに笑顔で手を振るランス。フェイレイはそんな父に尊敬の眼差しを送る。

「父さんはにんきものだねー。俺もにんきものになりたいなー」

「ハハ、そうかい? フェイならきっとなれるよ」

 そんな会話を交わしながら、病院へと到着した。




 特別棟へ続く長い空の回廊を渡り、自動ドアをくぐり抜ける。

 更に続く白い廊下を歩いていくと、廊下側に大きな窓硝子のついた病室が見えてきた。

「ひめー!」

 フェイレイはランスの手を離し、スライド式のドアを開けて中に入っていく。ランスもそれに続き、灰色に沈んでいる病室に灯りを点けた。

「ひめ、おはよ、おはよー」

 ベッドの横にあるソファに背負っていたリュックを放り投げ、眠り姫の眠るベッドに飛び乗ろうとするフェイレイ。

「フェイ、手を消毒してからね」

「あ、そうだ。はーい」

 ランスの声に、ベッドに向いていた足を慌てて止め、隅にある手洗い場で手を洗う。そうしてから、看護師が用意していた消毒液に手を浸し、清潔にしてから再度ベッドに向かった。

 ぴょん、と軽くベッドに飛び乗ったフェイレイは、両手で眠り姫の頬を挟み込み、にいーっと笑った。

「おはよー、ひめ。いっぱい寝た? 楽しい夢みれた? 俺、かいじゅうの夢見たんだよ」

「怪獣?」

 眠り姫の代わりに、飾っていた花の花瓶の水を交換していたランスが訊く。

「このあいだ読んだ絵本に出てきたんだよ。ドラゴンみたいに強そうだった!」

「それは怖いね」

「でしょー? でも、ひめのとこに出てきたら、俺がやっつけてあげるから大丈夫だよ」

「頼もしいなフェイは」

 花を飾り終えたランスは、眠り姫の腕に注入されている輸液の残量を確認し、眠り姫自身にも異常がないか目視で確認する。