「表向き、皇太子殿下は宰相とリディアーナ様討伐に出ました。けれども裏で、リディアーナ様を助けようと義父に命令を出したのです。一緒に囚われておいでのシャンテル様とともに、他国に逃がすように」

「……それが、このセルティアだった、のか?」

「はい。義父の行動は星府軍を……ひいては皇太子殿下に対する裏切りとなるため、捕まれば重い罪で裁かれることになります。そのため、家族である私たちにも逃げるようにとお達しがきました。そして、この国で落ち合う約束をしていたのです」

「では、貴女の父君や皇女殿下の母君も近くにおられるのだな」

「……そうであることを、願います」

 ビアンカは静かに目を閉じた。なにか覚悟しているような雰囲気だ。

 アリアも皇女が川を流れてきたときの状況を思い出す。……皇女とシャンテル、そしてクライヴが一緒にセルティアまで来たのだとしたら。一緒に、川に落ちたのだとしたら。……助かる可能性は低い。

 それでも、探してやりたい。

「捜索しよう。ランス、テーゼ川付近を重点的に……」

「うん、他の村にも連絡しよう」

 肩に乗せているヴァンガードをビアンカに預け、すぐにランスは廊下を歩いて行った。そんな彼とアリアに、ビアンカは頭を下げる。

「ありがとうございます、本当に、恩に着ます」

「いや。……すまないが、私たちに出来ることはそれくらいだ」

「いいえ。助けていただいたあなた方に危害が及ぶようなことはしたくありません。皇女殿下の怪我が治り次第、すぐに出ていきます。……このことは、他言無用に願います」

「もちろんだ。だが、よく話してくれたな。このような大事を……」

「ええ……」

 ビアンカは微笑み、フェイレイを振り返った。

 彼はまだ硝子窓に張り付いて、皇女にエールを送り続けていた。

「あのように人を心配出来るお子さんを育てていらっしゃるあなた方なら……信頼出来るのではないかと思いまして」

 同じ親としての勘、とでもいうのか。ビアンカはそんなことを言う。

「む……そうか」

 アリアは息子を眺め、目を細めた。そうしてビアンカの肩を叩く。

 そしてここにいる間の安全の保証と、皇女殿下を全力で護ることを約束した。

 世界中で死者と行方不明者が100万人ほど出た今回の自然災害、及び魔族との戦争。生死を問わず身元不明の者が続出している現在、それは難しいことではなかった。