「その役目を仰せつかったのが、私の義父、クライヴ=モリア=エインズワースでした」

 クライヴは宮廷精霊士で、皇太子の教育係でもあった。そのため惑星王からの信頼も厚かった。

「なるほど、そういう関わりが」

 アリアとランスは頷いた。

「シャンテル様は自分の身分以上のものは望まないと、皇都の外れにあるコスティリアという村で質素に暮らしておいででした。中々皇宮を離れられない陛下の代わりに、皇太子殿下がよくいらしゃっていたようです。皇太子殿下はリディアーナ様をとても可愛がり、リディアーナ様も皇太子殿下をとてもお慕いしていたそうです。それなのに……」

 ビアンカは、膝の上に置いた手をグッと握り締めた。

 仲の良い兄妹の絆は、汚い大人たちの手によって引き裂かれた。

 皇都の政を預かっているはずの宰相が、クーデターを目論んだのだ。

 それは神に背く行い。誰も考えつかないような狂気の沙汰だった。

 宰相は皇都の政を惑星王より託されていた。それは各国の王に共通する。

 だが宰相は、各国の王の権限を皇都に集中させようとしていた。開星以降、星をひとつに、という尤もらしいスローガンを掲げ、自分の手で世界を動かそうと画策していたのだ。

 何故そんな大それたことを望んだのか。

 あわよくば自分の娘を惑星王の妃に、と望んだことが、その欲望を具現化させるきっかけとなったのかもしれない。

 元老院や神殿のうちの何人かを抱き込み、神にも等しい存在である惑星王すら排除しようとした。

 彼らに必要なのは、絶対的権力を持つ神ではない。

 自分たちに都合のいいように動く、愛らしい傀儡だ。

「リディアーナ様は宰相らに囚われました。虐待を受けていたのは、恐らく、そこで……」

 自分たちの思い通りに動く人形にするために、恐怖で洗脳しようとした。

「なんと恐ろしいことを」

 アリアは憤る。想像するだけで吐き気がした。

 ビアンカは震え、涙ぐみながら頷く。

「惑星王が崩御されてすぐ、宰相らはリディアーナ様を次の皇帝に据えるべく、戦を引き起こしました。……皇太子殿下は星府軍を動かすほかありませんでした。あんなに可愛がっていた妹君に刃を向けるなど、お優しい殿下が望んでされるはずもなく、どんなに苦しんだことでしょう」

 ボロボロと涙を零すビアンカ。その肩をアリアが抱いてやる。