リディアーナは、惑星王の血は引いているものの、皇宮で生まれたわけではなかった。

 彼女は惑星王の妾腹の娘だったのだ。

 惑星王の伴侶である皇后陛下は身体が弱く、子をひとりしか生せなかった。そして5年もしないうちに崩御してしまった。

 “神”に仕える神殿は、尊き血筋を遺すため、惑星王に新しい妃をと望んだ。

 皇帝の妃には、必ずユグドラシェルの血統を持つ者が選ばれていた。けれどもこの時点でユグドラシェルの血は惑星王と皇太子のカインのみとなっていた。先代の代で宇宙からの侵略があり、それを防ぐため、多くの皇族が犠牲になっていたためだ。

 その最後の姫だった皇后が崩御したことで、ユグドラシェルの血は危機に瀕していた。このままだと次の代でユグドラシェル王朝は終焉を迎えることとなる。

 けれども神殿も、そして民も、永劫なるユグドラシェル王朝を望んでいる。このまま血を絶やすわけにはいかないのである。“絶対的支配者”の存在こそが、今まで“人の世界”を平和に保ち、精霊たちと共存させてくれていたのだから。

 そこに付け込もうとする貴族の多いこと多いこと。

 何しろ“神”の一族に自分の血を入れられるわけである。娘や姉妹を惑星王の伴侶にするだけで、凄まじい外威を手に入れられるのは間違いない。

 この攻勢に惑星王は心を痛め、そして疲れ果てていた。

 生涯を共にするはずだった皇后が去ったことで相当な心痛を抱えていたというのに、周囲で巻き起こる権力抗争。

 傷心の惑星王は心の隙間を埋めるかのように城下へ忍ぶようになる。そこで出会ったのがシャンテルという町娘だった。

 惑星王とは親子ほども年の離れた娘ではあったが、彼女の穏やかな気質が惑星王の心を癒し、支えとなるようになった。

 しばらくしてシャンテルに子が出来たのが分かり、惑星王は彼女を皇宮へ迎えようとした。しかし神殿を始め、周囲の猛反対にあった。尊き血筋を護るために、庶子の出であるシャンテルを皇宮に入れたがらなかったのだ。権力を狙っていた貴族からも睨まれ、シャンテルの後見になってくれる者もなかった。

 そしてシャンテルは愛した王を苦悩させたくなく、ひとりで娘を育てることにした。それがリディアーナだ。

 シャンテルは庶子の出でも、その娘であるリディアーナには惑星王の血が流れている。その血は護らなければならない皇宮は、彼女を認知し、保護することにした。