「……嘘だ。すまない」

「……え?」

「個人情報など開示されるわけがなかろう。貴女の反応を見たかった。それだけだ。騙してすまない」

 謝罪するアリアに、ビアンカはただ口元を押さえ、己の浅はかさを後悔する。

「だがこれだけは約束しよう。私たちはあの子に危害を加えるつもりはないし、貴女を捕らえようというわけでもない。……まあ、内容にもよるかもしれんが。貴族の貴女が幼い子どもに敬称をつけるくらいだ。よほど身分のある子なのだろう? 一体、どんな事情が」

「……知ってはなりません。巻き込むわけには参りません」

 ビアンカは口元を抑えながら、独り言のように言う。

「もう、巻き込まれているのかもしれないよ」

 ふと、そこにランスが戻ってくる。

 肩にはヴァンガードが乗っていて、彼はその高さに嬉しそうに笑っていた。

「巻き込まれている?」

 アリアが首を傾げる。

 ビアンカも訝しげにランスを見上げた。

「フェイは、あの子を託されたんだそうだよ。誰かに……ね」

 ランスの言葉に、アリアとビアンカはフェイレイに視線を落とした。

 フェイレイは大きな深海色の瞳をまん丸にして首を傾げた。大人たちが何をやり取りしているのか、分かっていないようだ。

「託された……と? ……まさか、義父に?」

 戸惑うようにそう言うビアンカに、ランスは優しく微笑みかけた。

「事情を話してもらえるね?」

 ビアンカはしばらく目を閉じ、長いこと葛藤していた。そしてゆっくりと頷く。

「……分かりました。お話します」