「それで、あの子の容態はどうなんだ?」

 肩を回しながら治療室を見やる。

「うん……あまり、良くはない。熱が下がらなくてね」

 硝子越しに見える治療室には、数人の患者がベッドに寝かされていた。その一番端に少女が眠っている。酸素マスクをつけられ、輸液チューブを鎖骨下に繋げられ、腕からも薬液が注がれている。

「そうか……」

 様々な色の管に囲まれた、痛々しい姿に眉を潜める。息子と同じような年頃の娘だのに……と思うと、胸が痛んだ。

「時々苦しそうにしてるんだ。俺、いいこいいこしてあげたいな」

 硝子窓に張り付いて、フェイレイは言う。

「中には入れないんだ。もう少し元気になったら、いいこいいこ、してあげようね」

「うん……」

 ランスに頭を撫でられても、フェイレイは哀しそうな目で少女を見つめる。

「それで、やはりカントの娘なのか?」

 フェイレイを窓際に残し、アリアとランスは廊下の端にある長椅子に座る。

「それが……あそこは村ごと土砂で埋まってしまったから、役場にあるはずの住民票もどうなったのか分からないらしいんだ。あの嵐の中、他所の人が山中を歩いていたとは考えづらいから、たぶん、カントの子だとは思うんだけどね」

「なら、家族はもう……望みは薄いだろうな」

「そうだね……。そのことで、ちょっと話が」

 顔を険しくするランスに、アリアも眠気を吹き飛ばすべく、姿勢を正す。

「なんだ」

「あの子……どうやら虐待を受けていたらしいんだよ」

 フェイレイには聞こえないよう、声をひそめるランス。

「……なんだと?」

「身体中に新しい傷と古い傷があるんだよ。それも服で見えない場所にだ。手指の骨も、足の指も、何本か折れてるっていうんだ。……日常的に暴行を受けていたんじゃないかって、先生が」

 アリアは息子が一心に眺める少女へ目を向けた。

「カントはアストラみたいな小さな村だよ。そういうことがあれば、すぐに他の住民に知れ渡るはずだけどね……」

 ランスはそこで口をつぐんだ。廊下の向こうから人がやってくる。白衣を着た医師と、その半歩後ろを歩く、子どもを抱いた女性だ。