世界中を襲った天災は沈静化しつつあった。

 まだまだ分厚い雲に覆われ、空からはパラパラと雨が降り注いでいたけれども、風も穏やかになり、地震の頻度も減った。何より、魔族軍が忽然と消えてしまったことは、住む場所や今年の収穫を奪われた人々にとっては願ってもないことだった。

 今のうちに態勢を整えようと、民衆が街の復興へ向けて一斉に動き出す。

 もちろんギルドの傭兵や国防軍の兵士たちもそれに加わった。

「太陽が出ればありがたいんだがな」

 窓から空を見上げ、病院の廊下を歩くアリア。

 忙しなく動き回る医療スタッフ、そして見舞い客や患者たちの間をすり抜けるようにして向かったのは、数日前川から助けた少女のいる集中治療室だ。

 ざわつく廊下をずっと歩いていくと、だんだんと人のいない静かな領域になっていく。その先が集中治療室だ。その治療室が見える大きな硝子窓に、息子が張り付いているのが見えた。

「フェイ」

 声をかけると、フェイレイはパッと振り向いた。

「あー、母さんー」

 にこおっと笑みを広げる息子に、緊張の糸が解れるのを感じる。どっと疲れが押し寄せてきて、大きな欠伸が出た。そんなアリアに、少し離れたところにある長椅子に座っていたランスが立ち上がり、声をかける。

「アリア、お疲れ様」

「ああ」

「始末書は書き終わったのかい?」

「さっきな。ったく、始末書よりも街の復興が優先事項だろうに」

 文句を言いながら、欠伸が出る。始末書のために二日ほど徹夜をしていたのだ。

 アリアは王都防衛の任務を放棄してガルガンデ最前線に赴いたため、それについての始末書を書かされていた。

 それだけで済んだのは、ガルガンデから魔族軍が退いたのが大きな要因かもしれない。一部では『セルティアの英雄』に恐れをなしたのではないか、などという声も上がっているため、それらも考慮されたのだろう。なんにしても独房に入れられるよりは遥かにマシな処罰であった。

 現在は魔族の群れは確認されておらず、街道などにいる魔族を傭兵たちが駆逐して回っているところだ。アリアとしてはデスクワークよりも、そちらの援護に向かいたいところだ。

 だがその前に、ずっと気にかかっていた少女に会いに来た。