ざざざ、と青い草原を柔らかな風が吹き抜けていく。

 しばらく抱き合ったままだったフェイレイとリディルは、そっと離れた。まだ少し雫の残る瞳に、互いにクスリと笑い合う。

「父さん、母さん、大丈夫?」

 オロオロと聞いてきたのは息子のシンだ。娘のリィも心配そうに父と母の服の裾を掴んでいる。

「ああ、大丈夫」

 フェイレイはいつものように明るい笑顔を見せて立ち上がった。

「おじいちゃんとおばあちゃんのこと、思い出してたんだ」

「どんな人だったの?」

「うん、それはこれからゆっくり話してあげよう」

 フェイレイはシンとリィの手を取り、二人が眠る墓へと向き直った。

「……父さん、母さん、また来るね」

 穏やかな笑みでそう告げると、子どもたちの小さな手を引いて歩き出した。そしてリディルを振り返る。

「今度はシャンテル母さんに会いに行かないとな。きっと、待ってる」

 リディルの『すべてを拒絶する世界』で奇跡的に逢うことが出来たリディルの母、シャンテル。あれは幻のようなものだったが、きっとあの水車小屋の傍で、穏やかに微笑みながら待っているのだ。そんな気がする。

 彼女にはもう一度逢って、しっかりと伝えなければ。必ずリディルをしあわせにします──と。

 そんなフェイレイの想いを受け取って、リディルは微笑みながら頷いた。

 その彼女の手を、小さな手が握りしめる。

「母さま」

 リィが小さく微笑んでリディルを見上げている。それに微笑み返して、娘の小さな手を握りしめた。

 穏やかな風の吹き抜ける草原を、四人は並んで歩いていく。







(了)