「え? ううん」

「どうして、泣いてるって分かったんだい?」

「んー?」

 フェイレイは走りながらしばらく頭を捻っていた。

「んー……わかんない。でも分かったんだ。助けてって言ったんだよ?」

「あの子が、言ったのかい?」

「うん。『見た』わけじゃないし、『聞いた』わけじゃないんだ。でも分かったよ。すごーく、ここがぎゅーってしてた」

 と、フェイレイは自分の胸を抑え、痛そうに顔を顰めた。

「あとねー、ちがう人の声もした」

「違う人?」

「うん。『お前にたくす』って、言われた」

「……託す?」

「うん。『お前にはわかるのだな』、って、言われた。おなかにずーんってくる声だったよ。その人に、お前にたくす、って言われたんだ。……ねえ、『たくす』って、なにー?」



(託す?)

 ……誰が?



 ランスは淡く光っていた少女の姿を思い出す。

 あれが見間違いでなかったのだとしたら。あれは一体、“なんだったのだ”。

 振り仰ぐ空からは、もう細い雨粒しか降りてこない。魔族軍も一斉に退いたと聞く。

 これは偶然か、それとも。



 この戦争の意味も、フェイレイが聞いた声も、そしてあの少女も。

 謎は深まるばかり。