ビョオビョオと、白い風がランスの体を嬲る。

 もう少し碧色の余韻に浸っていたかったが、ここ数日ろくに食べていなかったせいで足腰がフラフラだった。風に押されて雪原の上に倒れてしまう。

「こんなんじゃ、子どもたちが心配するな……」

 ランスは苦笑すると起き上がり、今来た道を引き返した。せっかく作った通信機が岩盤に埋まってしまった。掘り返さないといけない。

 それからランスは村へと足を運んだ。子どもたちのために村人と交渉し、身体を休めるための家を提供してもらった。

 人と関わっても、もうランスは暴走しなかった。

 そうして何もなかったかのように、やってきた子どもたちとエインズワース夫妻を迎え入れ、世話をし、そして迫りくる脅威に立ち向かっていった。

 子どもたちの盾となるべくアレクセイと対峙したランス。

 長い間破壊者と戦ってきた身体は、全盛期のようには動かなかった。妻の仇すら取れなかった。

 それでも彼は最期まで、子どもたちの良き父親だった。







 白い風が、湖を覆い尽くす。

 分厚い氷は激しい戦闘のためにあちこちが割れていた。その氷の上に、血まみれで倒れる金髪の男がいる。

 破壊者はそれを見下ろしていた。

 自分が宿っていた血が冷たい氷の上に流れゆく様を、憎々しげに見つめる。

『君は愚かだ。私を受け入れていれば、アレクセイなどに負けはしなかったのに』

 そして愛しい妻の仇を取ることも出来たのに。

 ランスはそれを受け入れなかった。

 最期の最期まで血に抗い続け、そして死んでいった。破壊者となればたとえ体が弱り切っていたとしても、人間程度、簡単に討てたのに。

『……まあ、いいか』

 破壊者は冷たくなっていく血から離れ、荒々しく燃え盛る血を求めた。

『“グリフィノー”は絶えていない。君の息子が、いるからね……』

 それでも、まだフェイレイには干渉しない方がいいのかもしれない。破壊者はランスで学んだのだ。無理やりに体を乗っ取ろうとしても、強い意志に跳ね返されてしまうことを。

 次は慎重に事を運ばねばならない。フェイレイは最後の“グリフィノー”だ。

『もっと別のアプローチが、必要だな……』

 その声は、白い風の中に、消えていく。