空よりも高く 海よりも深く

 猛烈に吹き荒れる吹雪の中に、ランスの絶叫が響き渡った。

 ランスは金色の髪を掻き毟り、その頭を、腕を、肩を、足を、硬い岩肌に何度も何度もふつけた。

「あ、りあ、ありあ……」

 愛しい者の名を呼びながら転げ回る。酷い苦しみが彼を蝕んでいた。

 日に一度、正午にあるはずの連絡が途絶えた。それだけ激戦を繰り広げているのだろうか? ……いや、違う。ランスには解った。もう妻はいない。燃えるような赤い髪と、深海色の深い青の瞳を持つ彼女の笑みを見ることは、もう出来ない。

 ──箍が外れた。

 限界はとっくに超えていた。

 それでもただ只管に、愛しい家族の為に守ってきた“自分”という存在だったが、そのひとつが欠けてしまっただけで、力の暴走は抑えることは出来なくなった。

(駄目だ)

(子どもたちが、まだ)

 心の奥底に残るその想いは、禍々しい声に呑み込まれていく。

『どうして助けに行かなかったんだろうね』

 そっと、悪魔が囁きかける。

『私は言ったはずだよ。このままではアリアは死ぬって。言うことを聞かなかったのは君だ。君がアリアを殺したんだ』

 破壊者の青年の声は執拗にランスの心を蝕み、空色の瞳からはとめどなく涙が溢れた。

 罪悪感が全身を痛めつける。手負いの獣のように、ランスは暴れた。

『もう君が君である意味はなくなったね。大丈夫だよランス。君の息子とあの子だけは殺さないから。だって私にとっても大事なんだもの。それより魔王だよ! 魔王があの子たちを殺すよ! いいのかい? 今度こそ躊躇っている暇はないんだよ? さあ、魔王を滅ぼしに行こう! 君は“勇者”なんだから!』

 思考の働かないぼんやりとした頭に、どうしてこの青年にとってフェイレイとリディルが大事なのだ、という疑問が湧き上がったが、すぐに水面の底に掻き消えて行った。

 ああ、子どもたちが無事ならば。

 それなら、別に、いいのか。

 その安堵が、ポキリと心を折った。