暴風に煽られて激しく揺られていた機体は、奇跡的に墜落することなく、魔族討伐専門機関ギルド・セルティア支部まで辿りついた。

 ギルドは星の開星以降、他星の文明を試験的に取り入れる受け皿となっているため、国のどの都市よりも近代的に発展している。

 高いセンタービルを中心に、傭兵たちの訓練場、宿舎、養成学校の学舎、様々な店が連なる街並み。その中に目指す医療施設もあった。現在どの病院より最先端の治療が出来る場所である。

 白い壁に囲まれた建物の中は、他所から運ばれてきた軍兵や民間人で溢れ返っていた。それに紛れるように、ストレッチャーに乗せられて処置室に消えていく少女。それをフェイレイは心配そうに見送った。

「……だいじょうぶ、だよね」

 きゅっと、ランスの手を握るフェイレイ。

「ああ、大丈夫だよ。ここにはいい先生がたくさんいるからね」

 安心させるように、穏やかな口調でそう言ってやるランス。

 やがて通りかかった医療スタッフに、「そんな小汚い格好で院内をうろつくんじゃない」と怒られ、身奇麗にしてから戻ってくるようにと追い出された。

 川に流されてそのままの格好の2人は泥まみれだ。清潔を保たなくてはならない院内で、病原菌だらけです、と言っているような格好で歩かれるのは確かに迷惑だろう。

 仕方なく病院を出ると、アリアが使っている宿舎へと向かい、顔見知りの寮監に風呂と着替えを貸してもらった。

「父さん、早く」

 風呂も着替えも大急ぎで済ませたフェイレイは、ランスの手をぐいぐい引っ張って走る。

「フェイ、そんなに急いでもあの子の容態は変わらないよ」

「だって見てないと心配なんだもん。また泣いちゃうかもしれないよ」

 そういえば、そんなことを言っていたか。

 助けてって言ったんだ。悲しそうに泣いてたんだよ、と。

 ……ランスは眉を潜めた。

「……フェイ。あの子が川に落ちるのを見たのかい?」

 そもそも疑問だったのだ。フェイレイは確かに好奇心旺盛な子どもだが、親の言うことをきちんと聞ける子だ。外に出るなと言われていたのに、どうして外に出たのか。しかもあの家から川岸の様子は見えないはずだ。