決死の覚悟で空に飛び立ったアリアたちは、すぐに違和感に気付いた。

 飛竜の姿が見えない。

 今まで人々と飛行艇に襲い掛かっていた飛竜が、ぱたりとその姿を消したのである。

「なんだ……?」

「静かすぎて不気味だな」

 煙を上げながら退避していく白と黒の飛行艇の合間を縫って、巨大な空飛ぶ要塞、ティル・ジーアに迫る。


 警戒を怠ることなく白い雲を突き抜けると、ティル・ジーアの甲板にある滑走路が見えた。星府軍の兵士たちが滑走路の両脇に並んでいるのが見えるが、その彼らも持っている銃をこちらへ向けようとはしない。

 様子を見るために滑走路の上を一度旋回してみたが、やはり攻撃はない。

「支部長」

 マックスライアンの声に前方へ視線をやれば、滑走路の中央を歩いてくる黒衣の騎士の姿が見えた。

「アレクセイか!」

 星府軍元帥、アレクセイ=ラゼスタは、物凄い勢いで突っ込んでくる飛行艇を真正面から迎え入れる姿勢を取っていた。

「なんだ、突っ込んで来いってか? お前の決闘を受けるってことなのか?」

 ガルーダがそう呟くのとほぼ同時に、アレクセイはすっと身を低くし、抜剣の構えを取った。正気の沙汰ではないが、彼は、飛行艇を斬るつもりだ!

「──マキシ、高度を上げろ!」

 アリアの叫びと、アレクセイが駆け出して飛び上がり、鋭く抜剣するのは同時だった。

 アリアも、ガルーダも、マックスライアンも。信じられない思いで視線を左へ向けた。鋼鉄の飛行艇の側面がゆっくりと剥がれ落ちていき、橙色に変わり始めた夕の空が視界を覆い始めた。

 馬鹿な。

 そんな一瞬の思考は、凄まじい衝撃に掻き消された。飛行艇が急激に高度を失い、バランスを崩して滑走路に突っ込んだのだ。

 摩擦力でしか止められない飛行艇は、勢いを殺すことなくティル・ジーアの格納庫に突っ込んだ。更なる衝撃にアリアの体も吹っ飛ばされ、強かに体を打ち付ける。