『支部長、怪我人を早くシェルターまでお連れ下さい!』

 インカムからはメイサの声が聞こえる。

 メイサはジェイドとともにパーティを組んでいた。……この二人はかつてフェイレイとリディルのパーティにいた。

 だからこそ、かわいい後輩の母親であり、尊敬する師の奥方であるアリアを死なせるわけにはいかなかった。ガルーダなど、グリフィノー家全員と共に戦ったことがある。誰も死なせたくはないだろう。

 それはこの三人だけでなく。

「オラ、行くぜ支部長!」

「早くゲイルを手当てしてやんねぇと!」

 周りにいる者たちが怪我人をダシに、アリアをシェルターへ移動させようとする。

「し、支部長、早く俺をシェルターまで運んでくれよ……アンタに運んでもらいてぇんだ……」

 足をもがれたゲイルまでもが、そんなことを言いだす。

 有り難いことだ。アリアはこんなときだが、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じていた。

「皆……ありがとう」

 けれど、アリアはもう心に決めていた。

 空気を切り裂く高い音が聞こえて、振り返る。

 白い飛行艇の翼がリンドブルムを吹き飛ばし、地面にいる星府軍の兵士たちを薙ぎ払いながらアリアの目の前へと突っ込んできた。

 飛行艇の屋根が開き、中からゴーグルを付けた男が顔を覗かせる。

「よう、支部長。お望みの勇気あるパイロットが来てやったぞ」

 ニッと爽やかな笑みを浮かべたのは、いつもグリフィノー家が世話になっているパイロット、マックスライアンだった。

 恐らく、今飛び立てば死ぬことになるだろう。現に空にいるパイロットたちは逃げることも叶わず、飛竜によって次々と命を散らしているのだから。

 それを見てもなお来てくれた彼に、アリアは何か言葉をかけるべきなのかもしれない。

 けれどもアリアは無言で飛行艇に向かい、開いた搭乗口へ駆け上がった。マックスライアンの笑顔に隠された壮絶な覚悟を前にしたら、どんな言葉をかけても陳腐に思えたからだ。