空よりも高く 海よりも深く

 もうすでに天変地異は始まっているのか。

 魔族がまた、軍を率いて攻めてきているのか。

 それにしても竜が大群で攻めてくることなど、十年前ににもなかったことだ。人を嫌う竜種は滅多なことでは人里には降りて来ず、自分たちを脅かそうとする者ならば同じ魔族ですら狩るという、獰猛な種族。

 そんな彼らを統率出来る者などいない。

 そう、いない。

 ただ一人を除いては。




 背後に迫る追手を牽制しながら、傭兵たちをシェルターへと避難させる。

 あちこちで爆発音が響き、先程までいた商業区からも火の手が上がるのが見えた。もうこのセンタービルも破壊されるだろう。ティル・ジーアの主砲を防ぐ防御壁が弱まっている。その上での飛竜の攻撃。シェルターも耐えられるのか疑問だ。……耐えられるのを祈るしかない。

「急げ!」

 傭兵たちをシェルターへ誘導しながら、アリアは通信機のボタンを押した。

「フェイ……今どこだ」

 まだティル・ジーアの中だろうか。その方が今は安全であるかもしれないが。

 そう思いながら宙に広げた緑色の地図に、赤い点が高速で移動しているのが表示された。位置的にはティル・ジーアから北へ5キロほどだろうか。

「飛行艇に乗ったか……!」

 どうやらリディルとヴァンガードも一緒のようだ。だがしかし、今この空は飛竜に蹂躙されている。この中を飛んでいるというのか……!

 アリアはセンタービルを出て空を見上げた。

 すると、遥か遠くの空に、身震いするほど大きな“力”を感じた。

 それは飛竜たちにとっても畏れるような力であるらしく、僅かな間ではあるが彼らも長い首を擡げて動きを止めた。

 空に、黄金の光が走っている。

 自分が踏みしめている大地から、体に直接力が注ぎ込まれてくるような感覚がある。そのあたたかな力の根源は、あの黄金の光。

「ウィルダスの女王……リディルか!」