どう思われようと、そうなのだ。

 確かに彼らは精霊を召喚出来ない。

 ランスはギルドに入る前の身体検査で、異常なほど魔力が高いことが分かっている。それでも彼が精霊士にならなかったのは、どうやっても召喚出来なかったからだ。

 召喚とは、人の魔力を対価に精霊を喚び出し、魔力に応じた力をこの世界に顕してもらうことを言う。その魔力を渡す、ということがランスには出来なかった。

 不思議だ。

 精霊士さえ精霊たちの姿を見ないこの状況ですら、ランスの前には精霊が現れる。それだけ好かれているというのに、契約が出来ないとは。

 フェイレイも同じだ。

 ランスの血をそのまま受け継いでしまったのか、彼の周りにはいつも精霊が飛び交っている。魔力の測定をすれば、恐らくランスと同じ数値を叩き出すのだろう。

 けれども2人は精霊を召喚出来ない。何かが足りないのだろうか。召喚するための何かが。

 それでも精霊に好かれる2人。笑顔で言葉を交わす人と精霊。

 その関係は一体何なのか。

 魔力を受け取らずに、自らの命を削ってまで助けてくれる精霊たちの、その行動の意味は何なのか。アリアには分からない。

 けれどもこれだけははっきり言える。

 彼らと精霊の間には“友情”が存在する。だから彼女たちがランスたちに嘘を言うはずはないのだと。



 飛行艇が飛び立って少しして、風が弱まり雨が小降りになりだした。

 そして。

「おい! 魔族軍がガルガンデ山脈から姿を消したぞ! 一体どこに行った!」

 北部基地の中を、騒々しい声が駆け巡る。

「な、なにが起きた……」

 目を丸くしている傭兵仲間に、アリアは得意げに言う。

「ふん、だから言っただろう。ランスとフェイレイが大丈夫と言ったら大丈夫なんだ」

 魔族が退いた理由は知らんがな、と心の中で呟く。

(……本当に、何故退いた? 精霊と何か関係があるのか? それとも、精霊の方が魔族と関係が? ……分からない)

 そんな疑問を残したまま、アリアは事態の確認のため、またガルガンデ山脈に向かうことになる。