消えゆく小さな命を前に苦悩する医師。それでもなんとか助けたいと、少女の濡れた体を毛布で包んでやるランス。何かいい案はないかと、テント内を忙しなく歩き回るアリア。

 それを少女の手を握りながら心配そうに見ていたフェイレイは、ふと顔を上げた。

「……なんか聞こえる」

 耳に手を当て、辺りを見回すフェイレイ。

 その様子に、ランスも顔を上げた。

「……ああ」

「なんだ?」

「嵐が止む」

「なんだって?」

 アリアとハーネス医師が眉を潜める。

 それからすぐにアリアはテントの外へ飛び出した。見上げた空は、変わらず分厚い雲に覆われている。だが、雨も風も僅かに弱まった気がする。

 何故かは知らない。

 けれどもこれなら。

「飛行艇を飛ばせ!」

 テントに戻るなり、アリアは叫んだ。

「しかし、またすぐに悪化したら……」

 渋る傭兵仲間に、フェイレイが笑いかける。

「だいじょうぶー。グィーネが『あらしはおさまる』って言ってるー」

 ニコニコとそう言うフェイレイの肩に、ランスが手を置いた。

「うん、俺にも聞こえた。飛行艇は必ず無事に着く。だから、飛ばしてくれないか」

「う、ううん……しかし……」

「モタモタするな! 早くパイロットを連れてこい! 確かマックスライアンがいただろう、ヤツなら落ちん!」

「しかしいくらマキシでも……」

「いいから連れて来い!!」

 最後はアリアの剣幕が人々を動かした。

 しかしだいぶ収まったとはいえ、とても飛行艇が飛べる風の強さではなかった。周りの誰もが止めたが、アリアだけは大丈夫だと言い張り、ランスとフェイレイ、そして少女を乗せると、無理やり飛行艇を離陸させた。

 真っ暗な雲の中へ消えていく白い機影。

 それを深海色の目を細めて見送る。

「アリア、本当に大丈夫か?」

 一緒に飛んでいく飛行艇を見送ったギルドの仲間たちが心配そうに言う。

「やっと支部にも支給された飛行艇だぞ、壊したら上になんて言われるか……しかも堕ちたら息子も星になるぞ」

「ランスとフェイレイが大丈夫と言ったら大丈夫なんだ」

「家族を信じたいのは分かるが……」

「そういう精神論からじゃない。ランスとフェイレイは精霊に好かれているんだ。だから他の人間よりも彼女たちの声が聞こえる」

「……召喚出来ないのにか」

「そうだ」

 傭兵の面々は顔を見合わせ、肩を竦めた。