教育のし直しだ。

 身を低くし、拳を作って構えるフェイレイに、アリアは赤い唇の端を上げる。

「お前と手合わせするのは何年ぶりかな」

 言いながらヒールのついた靴を脱ぎ捨て、タイトなスカートを太腿までビリリと破いた。そしてブライアンの差し出した赤いグローブをはめ、フェイレイと同じように構える。

「手加減は無用だぞ。こちらも本気でいく」

 地上50メートルのビルの屋上に吹く強風に横から煽られながら、互いに闘気を高めていく。

 ふっと短く息を吐き出して、アリアが最初に動いた。

 2、3歩で一気に間合いを詰め、フェイレイの顔目掛けて拳を繰り出した。

 眼前に迫る拳を見極めたフェイレイは、最小限の動きでこれを躱した。しかし鋭い気を纏わせたそれは、避けられてもなお、フェイレイの皮膚を斬り付けた。

 ぱっと、鮮血が散る。

 けれどもそんなものはどうでもいいとばかりに、耳を掠めたアリアの拳を押さえつけるフェイレイ。

 アリアは笑みを浮かべた。

 最初の一撃は必ず避けろ。

 そう、昔に教えたことをちゃんと覚えている。そのことがアリアの胸にあたたく広がり、同時に失いたくないとも思う。


 ──生き延びろ。


 その想いを乗せて身を反転させたアリアは、左足を軸に右足を蹴り上げた。フェイレイは振り向きもせず、それを左腕で受け止める。

 更に回し蹴り、後ろ回し蹴り、そして拳を叩きつけたが、すべて余裕を持って躱された。

 フェイレイは後ろに跳んで一旦距離を取ろうとしたが、アリアはそれを追撃する。

 目にも留まらぬ速さで襲い掛かる拳の連打。

 恐らく、この戦いを見守るブライアンやヴァンガードには何が起きているのか見えていない。それでもフェイレイは躱す。見事な体捌きだ。しかし反撃のチャンスなど与えてやらない。


 ──アレクセイはもっと速いぞ。


 アリアは自分の持てる力すべてで、息子に襲い掛かった。