「分かってる。絶対に帰ってくるから!」

 裏でギルド職員たちが動き回っている間にも、フェイレイは必死にアリアを説得しようとしている。

 絶対にリディルを助ける。

 あのアレクセイの隙をついてリディルを救出し、星府軍の追手からも逃れ、そして父と母のいるこのセルティアに帰ってくる。

 フェイレイの深海色の瞳からは、絶対に曲げられない強い意志が宿っていた。

 ……この息子なら、やってくれるかもしれない。そうアリアに思わせるほどには強い瞳だ。

 それならば。

 リディルのことは全てフェイレイに任せ、アリアはセルティアの防衛に全力に挑むのがいいだろう。

 ただし。

 アレクセイに討たれないほどの強さを見せつけてもらえるならば、の話だ。

「お前を今行かせるわけにはいかんのだ。……どうしても行くというのなら、この母を倒してから行くのだな」

 時間稼ぎのためと、そして、息子の覚悟の強さの確認。

 その言葉にフェイレイは目を見開く。

「そのくらいの覚悟はあるのだろう?」

 母を倒してでもリディルを助ける。そのくらいの気概がなければ、アリアとて愛しい息子を戦場に送り出すわけにはいかない。

 圧倒的に死の確率の方が高い戦場になど。

「母さん……」

 フェイレイはアリアを見つめた後、黒い戦艦を見上げた。そして首にかかけた鎖に繋がるシルバーリングを握り締める。

「……約束したから」

 そう呟き、手にしていた愛剣──武器屋の主人がフェイレイのために生み出した魔族討伐専用武器、ヴァトライカ製の可変式剣『ユースティティア』──を腰の後ろに戻した。そしてベルトごと鞘を外し、ヴァンガードに向かって放り投げた。

 それを受け止めたヴァンガードは、あまりの重さに後ろにひっくり返っている。それを目の端に捉えながら、アリアは溜息だ。

 自分の獲物を放り投げ、相手の得意分野で戦うつもりか。

 どこまでも甘い。

 その甘さを抱えたままで生き残れるほど戦場は甘くない。あのアレクセイは甘くない。