国防軍とギルドの北部防衛基地本陣が置かれているミスケープは、頑丈な石の壁に囲まれた、この辺りでは一番大きな都市だ。ここでならば少女の治療も可能だろうと期待していた面々は、すぐにその希望を打ち砕かれる。

「負傷者が多数で、医療器具も包帯も薬も何もかも足りない。土砂崩れで補給路が絶たれているんだ。かわいそうだが、この子を治せる設備がない」

 街の中心部から少し離れたところにある平原に建てられた、軍の医療テントの中へ駆け込んだランスたちに告げられたのは、絶望とも言える宣告だった。

「このように幼い子どもを見捨てろと言うのか!」

 アリアが怒鳴る。

「森の精霊たちに喚びかけてはいるのだが、常のように力を分けてもらえない。我々も歯がゆいことなのだが……!」

 いつもならば医療班として活躍するギルドの精霊士たちが、拳を握りながら悔しさを顕にする。

「飛空艇は飛ばせないのか」

「無茶を言うな。有翼の魔族ですら飛べない嵐だぞ」

「……くそっ」

 拳を振り上げたい衝動を堪え、床に置かれた担架を振り返る。その上に寝かされている少女の顔は、ますます青ざめているように見える。

「いかん、これ以上出血をすると……」

 少女をずっと診ているハーネス医師が額から汗を流し、呟く。しかしここには血液製剤もないのだ。

 これは本当に、諦めるしかないのか……。大人たちが諦めかけていると、フェイレイが不安そうな顔で重く沈むみんなの顔を見回した。

「先生、ねぇ、大丈夫だよね? 死なないよね?」

「う、うむ……」

「助けてって言ったんだ。悲しそうに泣いてたんだよ。だから助けてあげないと」

「……助かると、信じたいが……ううーん、飛空艇さえ飛んでくれればフォルセリアかギルドに……」

「ギルド? ギルドまで行けば助かる?」

「ああ、あそこには大きな医療施設があるからね。ギルドの方がフォルセリアの医療センターよりも技術は発達しているかもしれない。だが、そこまでの道が……」

 補給路が絶たれているということは、そこまで行くことは出来ないということだ。

 この嵐が続く限り、道が回復することはないだろう。