「俺は『リディル専属勇者』なんだけどな」

 言いながら、フェイレイは庭の切り株に目をやる。シンとリィがそこに座って、丘の下の景色を見ながら楽しげに話をしていた。

 自分たちの幼い頃にそっくりな2人を見ていると、なんだか感慨深い。

 ちょうど同じくらいの年頃だった。

 この家を包み込むように立っていたあの木の下で、『リディルの勇者になって、ずっとずっと護ってあげる』──そう、約束をしたのは。

 昔を思い出しながら左手の小指をリディルのそれと絡ませると、ペアのシルバーリングがかちり、と小さな音を立てた。

 その音に、微笑み合う。

 それは二度目の約束の音。

『俺は、何があってもリディルを護ります』

 彼女の正体を知った後、新たに決意した言葉。

 そして、小指の隣で光る指輪は永遠の誓い。『一緒にしあわせになろう』という、約束のしるし。

 2人はたくさんの約束を交わした。

 その中のひとつを、今日、果たしに行く。



 子どもたちを連れて更に丘を上っていくと、すぐに目的地に着いた。

 村全体を見渡せる丘の上に、約束を交わした人たちが眠っている。

 10年経っても変わらない。今も村の誰かが世話をしてくれているのだろう──たくさんの花に飾られた銀のプレートの下で、静かな時を過ごしていた。

「……父さま、ここが、おじいちゃんとおばあちゃんが眠っている場所?」

 かわいらしい娘の声に、フェイレイは頷いた。

「そうだよ。……やっと、約束を守れた」

 フェイレイはリディルの手を握り締めると、銀のプレートを見下ろし、微笑んだ。

「ただいま、父さん、母さん。……ほら、ちゃんとリディルを連れて戻ってきたよ。それから……リィシンとリィファ。俺とリディルの子ども。双子なんだ。かわいいだろ?」

 子どもたちも引っ張ってきて、両親に紹介する。

「……おじいちゃん、おばあちゃん、はじめまして。リィファだよ」

「俺、リィシンだよ。よろしくね」

 子どもたちは恐る恐るプレートに話しかけた後、教えられるでもなく地面に膝をついて両手を組んだ。フェイレイとリディルも同じように膝をつき、両手を組んで目を閉じる。

 ざざざ、と風が吹く。

 それは遠い過去の声を連れてきた。