空よりも高く 海よりも深く

「すべてを破壊すればいい」

 自分の口から零れた言葉に、ランスは驚いた。

 そしてヒクヒクと痙攣する頬に戦慄した。今、自分は嗤っているのか。破壊を望んで、嗤っているのか。

 指先が動かない。気温のせいではない。明らかに、自分の意思の通りにはなっていない。眼球だけがキョロキョロと動く。

「恐れるな、私はお前だ」

 再び漏れる声。

 これは自分ではない。あの、自分にそっくりな青年だ。この世のすべてを憎む、破壊者だ。

「お前の願い通り、この世界を壊してやるよ」

 自分の意思とは関係なく笑い声が出る。

 ランスは空色の目を見開き、そして。

「うぐ……あ、ああああああああっっ……!」

 岩盤に転がっていた尖った石を手にして、自分の太腿に突き刺した。

 その痛みに悶え、呻き、もんどりを打って倒れた。深々と突き刺さった石を引き抜き、岩盤に叩き付ける。

「出ていけ! お前になど支配されたりしない! 決して……!」

 家族は助けを求めているかもしれない。国を丸ごと護れるような、巨大な力を欲しているかもしれない。けれども破壊者は望んでいない。ランスがその力を手に入れたとて、絶望させるだけだ。

 赦すものか。

 俺は、俺でい続けなければならない。

 家族に顔向け出来なくなるような、恐ろしい存在になんかなったりしない。最期まで俺は、妻が誇れる夫であり、あの子たちの父親だ。


 白い息を巻き散らかしながら倒れていたランスは、やがてむくりと起き上がる。

 星府軍に見つかったのなら、エインズワース夫妻はきっと連行される。だからここには来れないのだろう。けれどもアリアは子どもたちだけはここへ送ると言っていた。彼女は口にしたことは必ず実行する。必ずだ。

 流れる汗をそのままに、ランスは荷物を漁りだした。

 星府軍に追われても、その身を隠せるようにしなければならない。身分を偽れるものが必要だろう。子どもたちに役立つものを作ろう。

 ランスは予備に持ってきていた通信機を分解し、チップを取り出す。破壊者を出さないために機械類と向き合う日々だったため、色々と詳しくなっていた。

 データを書き換え、身分証を偽造する。

 黙々と作業している間、破壊者は現れなかった。