空よりも高く 海よりも深く

 通信を切られたランスは動揺していた。

 星府軍がセルティアに来る。戦争になるかもしれない。いや、恐らくなるだろう。星府軍とやりあえるだけの戦力がセルティアにあるだろうか。……白兵戦でならばまだ希望がある。けれども星府軍は唯一、古代の遺物である『ティル・ジーア(神の船)』という巨大な空飛ぶ戦艦を擁している。

 駄目だ、負ける。

 セルティアの戦艦はティル・ジーアの模造品。決してオリジナルには敵わない。

 ランスは立ち上がった。だがすぐに崩れるように倒れ込み、寝袋の上に無様に転がった。

「く……」

 弱り切った体では立つことすら叶わない。愛しい妻の危機に、何故何も出来ないのか。

「うぐぅぅ……」

 拳を冷たい岩盤に叩き付け、叩き付け、血に染まったそれを更に叩き付け。

 何も出来ない自分に絶望する。

 滲む涙が、吐き出される白い息が、パキパキと音を立てて凍り付く。流れ出た温かな血が、端からどんどん凍り付いていく。

 だれか、だれか、アリアを助けてくれ。

 セルティアを助けてくれ。

 その叫びが、洞窟の外で猛烈に荒れ狂う白い風に溶け込んでいく。甲高く鳴く声が、ランスを包み込む。


『そう、求めればいいんだよ』


 白い空間に悪魔の囁きが零れ落ちた。


『ねえ、早くしないとアリアは死ぬよ。いいのかい?』


 どくり、と心臓が重苦しく鳴った。

 そうだ、死んでしまう。今助けに行かなければ、アリアは、子どもたちは、狂ったヤツラに。


『早く私とひとつになろう。そうすればすべてを破壊出来るんだ。アリアや子どもたちを狙う輩なんか、一瞬で消し去れる。欲しいんだろう? 星府軍を駆逐出来る力が』


 声は嗤う。

 ランスと同じ声の彼は、歪んだ笑みを浮かべながらランスに手を差し伸べる。


『出来るよ。君は出来るんだ。すべてを破壊するんだ。そうしないと家族は死ぬ。血だらけで、君に助けを求めている!』

「ああ……!」

 ランスは虚空に手を伸ばした。

 家族を害する者など、いらない。

 アリアや子どもたちを傷つけるものなど、いらナイ。

 ナニモカモ、コワレテシマエバイイ……!