空よりも高く 海よりも深く

「国民の避難が間に合わない時には、殿下を星府軍へ引き渡す。その後で全力で取り返すがな」

 アリアとしても苦渋の決断ではあった。

 だが、クラウス王が治めるこの国の国民として、彼の友人として、共にこの地で生きてきた者たちを危険に晒すこともまた出来なかった。

 一人でも多くの命を救うために出した結論が、リディルに時間稼ぎをしてもらい、そして全力で迎えに行く、というものだった。

「むざむざ奪われはしない。私の、愛しい娘だ」


 それからギルドの傭兵たちの部隊を街の待機組と、各地の防衛組とに分け、編成し直す。

 ギルドの街中や、このセンタービルに備えられている魔力による防御膜展開装置の準備など、忙しく動いているうちにランスに定時連絡を入れる正午になった。

 人でごった返すセンタービル内で、唯一喧噪から離れている薄暗い倉庫に飛び込み、左手首につけている通信機のボタンを押した。薄暗い空間にぼんやりと光が浮かび上がり、すぐにランスが顔を見せた。

「ランス」

 顔色が悪く、頭がフラフラと揺れているランス。

 それでも彼は微笑みを浮かべ、気丈に振る舞おうとしている。無理をしているのが分かる。その顔に右手を伸ばし、そっと撫でるように触れた。

『……アリア?』

「星府軍が来る。リディルを奪いに。惑星王は……リディルの敵だ。戦になる。クラウス王が許可した」

 硬い声に、要点しかない言葉。ランスの顔がみるみる強張っていった。

「エインズワース夫妻は恐らく行けない。だがフェイとリディルは必ずそちらにやる。受け取ってくれ」

『アリア』

「時間がない。また明日連絡する」

『アリア!!』

 必死に妻を繋ぎとめようとするランスに、アリアは鋭い深海色の瞳を柔らかく細めた。

「愛してるぞ、ランス」

『──!!』

 ランスが何かを叫ぼうとしていた。けれどもアリアはそれを断ち切り、現場へと戻っていった。