アリアと謁見したクラウス王はすぐに全国民に避難を命じ、兵士たちに戦争に備えるようにと指示を出してくれた。

 天変地異が起こるかもしれないからと、すでにシェルターの用意は整えられている。後はここに民が避難すればいいだけだ。これで星府軍と争うことになろうとも、民の命は護られるだろう。……全員の避難が間に合えばの話だが。

 この国には百万からの命がある。全員避難するには相当の時間が必要だろう。

「申し訳ありません、王」

 深々と頭を下げるアリアに、クラウス王は穏やかに声をかける。

「……前に娘と国を天秤にかけられるのかと、意地の悪い質問をしてしまった。すまなかった」

「王が謝ることではありません。答えられなかった私が愚かなのです」

「いいや、答えなくて良かったのだ」

 クラウス王はゆるゆると首を振る。

「娘と国。決して天秤にかけられるものではない。どちらも大事なのだから。だから答えられなくて良い。……アリアはそれでいいのだ。選ぶのは、私だ」

 はっとして、アリアは顔を上げた。

「それはこの国を背負う、私の役目なのだよ。その責を負うのもな」

 その穏やかな相貌が、今のアリアにはとてつもなく遠く、高いところにあるように見えた。

 アリアは拳を左胸に叩き付け、そして更に深く頭を下げた。

「必ずや、貴方をお守りします……!」


 貴い志の持ち主だ。

 あれこそ、私の王だ。

 そして私も王が治める国の民として、毅然と立ち向かっていきたい。

 アリアはそう決意し、ギルドの会議室へ挑む。




「星府軍と戦……? 馬鹿な、何がどうなって! 魔族の増加だけでなく、もうすぐ天変地異が起こるかもしれないという時に!」

「ご説明を、支部長」

 会議室に集められた役員たちは、揃って声を荒げた。それはそうだろう。星府軍は惑星王の直轄部隊。“星の守護”のために集められた精鋭だ。対魔族に秀でたギルドの傭兵たちですら、束になっても敵う相手ではない。

 星府軍と相対するのは、神に逆らった逆賊。

 何故その汚名を被ることになるのか。

 役員たちの鋭い視線が、支部長であるアリアに向けられる。