陽の光に肌を焦がされると感じ始めたのはいつからだったのか。

 闇の中に身を浸しているのが心地良いと感じるようになったのはいつからだったのか。

 胸の奥で燻る嗜虐的衝動を抑え込めなくなったのは。時折意識を乗っ取られていると感じるようになったのは。ああ、自分の傍に人を置いてはいけない。そう、思考するようになったのは。

 玉座に足を組んで座る自分が、今何を言ったのか、分からない。

 頬から首へ、冷や汗が滴り落ちていく。

「……アレクセイ」

 分厚いカーテンが引かれ、明かりも全て落とされた暗闇の中、その名を呼ぶ。

「はい」

 玉座へ続く階段の下から、低い男の声が返る。そのことに安堵しつつ、カインは溜息交じりに彼へ言った。

「ローズマリーを、頼む」

 何も見えない闇の中、はっと、息を呑む気配がした。

「頼む」

 念を押すように言葉を零すと、それきりカインの意識は深いところへと潜っていった。

 そうして、再び彼の唇が震え出す。

 そこから漏れるのはくぐもった笑い声だ。

 そして階段下にいるアレクセイに再び声をかける。

「アレクセイ、セルティア国へ向かえ。リディアーナを奪還後、いつものように頼むぞ」

 くつくつと笑い声を漏らしながらそう命令を下した『皇』。

 膝を折り曲げ、頭を垂れていたアレクセイは僅かに拳に力を込めた。

「仰せのままに」

 静かに目を閉じるアレクセイの背後には、山となって折り重なる人々がいた。侍女や侍官、精霊士や騎士の服を着た者たちは、この皇宮に勤める者たちだった。

 彼らは物言わぬ肢体となって横たわる。

 哀しみや痛み、恐怖といった感情のすべてを、とうとうと滴り落ちる血に託して。