「……まさか、そんな」

 アリアは否定したくて頭を振った。

『もし本当にグルトスやターニアが謀反を企んでいたとして、賢王と名高いカイン陛下が民草まで巻き込むとは思えん。……そうでないと、私も思いたい。だが、最悪の場合を考えなければならないことは確かだ。惑星王が皇都に魔族を呼び込み、星府軍を動かして国を滅ぼしている可能性は、少なくはない。むしろ……そうであると、思わざるを得ない状況だ。もし本当にそうであるならば』

 クラウス王はアリアを真っ直ぐに見やった。

『もしもの時。お前は娘を差し出すことは出来るのか?』

 抑揚のない声と感情の読めない目で訊ねられて、アリアは息を呑んだ。

『我がセルティア国と娘の命。天秤にかけられるか?』

 アリアはその問いに、答えることが出来なかった。




 その数日後。

 フェイレイたちの派遣先、エスティーナで炎竜が出たというので応援部隊を遣って事態の収束を待っていると、息子から通信が入った。

 顔が血だらけで右半身もどうなっているのか、任務服はボロボロの血だらけで、破けた服の下に見える皮膚の色も赤黒くてグチャグチャだった。

 単体パーティで出会ったら全力で逃げろと言われているドラゴンをまともに相手にしたらしい。

 まったくこの息子は、とアリアは胃がキリキリ痛むのを感じながら報告を聞く。

 すると、更に胃の痛くなる報告がなされた。

 リディルが精霊の女王を召喚したというのだ。

 アリアは顔を強張らせる。

 リディルがアランの女王を召喚した。精霊士養成学校では女王召喚など教えない。たとえ教えたとしても、出来ないのだ。女王召喚には、“皇の血”が必要だから。

 だから“リディル=カーヴァンス”は、女王召喚の術など知らないのだ。