『君の“娘”に会ったよ。……とても優秀な精霊士なのだな。この城を一人で3日も護り通してくれた』

 通信機が宙を照らし出す光の中で、セルティア国王、クラウスが優し気なブラウンの瞳を細めている。

 フェイレイとリディルが王都フォルセリアに現れた魔族討伐に出たのは三日前。破られるはずのない防御壁を擦り抜けてきた魔族に怯える民を落ち着かせるため、『セルティアの英雄』を指名してきたのはクラウス王だった。

 リディルの正体を知っている王は何か思うところがあったかもしれないが、何も言わずにいてくれたようだ。
 
『君の息子も凄いな。私たちの兵がまったく歯が立たなかった魔族を、たったの3日で追い払ってしまった。……まさに『英雄』の名に相応しい働きであった』

「恐れ多いお言葉でございます」

 立体映像の王に向かって、アリアは微笑みながら頭を下げる。

『して……やはり魔族増加は止まらぬか』

 厳しい面差しのクラウス王に、アリアも顔を上げ、神妙な顔で頷く。

「はい、残念ながら。こちらも手を尽くしておりますが、一向に数が減りません。もしものために、民をシェルターへ避難させる準備が必要かと」

『なるべく使わないで済ませたかったが……。分かった、各地へ通達しておこう』

「それがよろしいでしょう」

 十年前の災害により打ち立てられたシェルター計画。それはちょうど一年前に国中の工事が完了したところだった。出来ればその用途は備蓄倉庫のみにしておきたかったが、天変地異の惧れがあり、星府軍との戦闘の可能性も見え始めた今、国民の避難経路の確保は最重要要綱だった。

 ここにきてクラウス王の先見の目が日の目を見ることになる。

 ……こんな形を王は望んでいなかっただろうが。

 星府軍との戦闘も、出来ることなら避けたいところだ。