「……いや、いい。お前が聞いて調書に纏めておけ」

 アリアはドサリと背凭れに身を預けた。

 賢王と謳われるカイン皇帝陛下。その彼が都政に口を出しただけでなく、民から不当に税を巻き上げているというのか……? しかも2、3年も前から。頭が混乱して、アリアは蟀谷を指先で抑えた。

「都政のことは置いといて……魔族が民に影響を与えているということは、本部はほとんど機能していない、ということなのか」

「連絡が取れないので何とも言えません。ですが……中央大陸全土に渡って魔族が出現しているようですので、そちらに戦力を取られているのかもしれません」

「……皇城はどうなっている。星府軍が対処しているのか」

「こちらも近づけないそうですが……皇城付近での戦闘は目撃情報がありません」

「星府軍も動いていない。……彼らが攻めているのは魔族ではなく、国……?」

 何故だ。

 不可解なことが多すぎて、アリアは頭を抱えた。

 今までの情報を簡単に整理すると、2、3年前からカインが皇都の税率を上げ、それで疲弊した民が皇都から他の大陸へ移っている。そして今や都は魔族に溢れ返り、世界各地で魔族が爆発的に増え始めた。詳細な時期は分からないが、この時期に西のターニアが星府軍に滅ぼされ、ギルド本部とも連絡がつかなくなった。

 これとクーデターが起きたときと何か共通点があるのだろうか。

 ……悪意が、皇家に向かっていることか。

 クーデターが起きたときと同じ。精霊たちに影響を及ぼすほどの“悪意”が、皇都を……惑星王を中心にしてこの世界に溢れだしている。

 リディルの兄、優しいカイン陛下。

 その彼が、何故都民を突き放すようなことをしたのか。そもそも魔族を追い払えるだけの力が皇都にはあるはずなのに。

 魔族討伐専門機関ギルド本部。星府軍。そして、惑星王。

 これだけの戦力がありながら、何故皇都に魔族が蔓延っているのだ。

 答えの出ない思考をグルグルと巡らせていたところに、新たに情報が入ってくる。

 皇都で終身刑に処されていた元宰相が、皇城前の広場で公開処刑になったというのだ。